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IoT国内市場の「リアルな姿」とは? 富士キメラ総研の研究員に聞く

マーケット調査とコンサルティングで知られる富士キメラ総研では、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進する注目7業界におけるIoTソリューションへの投資動向を調査し、その結果を「2019 センサーデバイス/ビッグデータ・IoT市場調査総覧(下巻):IoT市場編」としてまとめた。同資料の読みどころは何であるのか? 今回の調査から見えてきたIoTの最新動向とは? 調査を担当した同社の花棚 洋氏と松本 竜也氏にそのエッセンスを聞いた。

よりリアルなIoT市場の動向を明らかにする

――このたび発刊された「2019 センサーデバイス/ビッグデータ・IoT市場調査総覧(下巻:IoT市場編)」の概要をご紹介ください。

松本氏: 国内におけるICT投資の多くは基幹系システムへの投資やレガシーシステムの運用保守が大きなウェイトを占めてきました。しかし、2018年に経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」への対策として、IoTやAIなどを活用したデジタル・トランスフォーメーション(DX)の重要性があらためて認識されています。

そこで本総覧では、IoTを実現する製品やサービスの市場動向に加え、ソリューションベンダーの対応までふかんしたIoTビジネスの方向性を取りまとめるとともに、注目業界別のIoT市場動向も調査のポイントとしました。業界ごとにどんな特徴があるのか、さまざまな製品やサービスについてどんな需要が伸びているのかといったトレンドを、カテゴリに分けて分析したレポートになっています。

株式会社富士キメラ総研 第二部門 花棚 洋 氏株式会社富士キメラ総研 第二部門 花棚 洋 氏

――IoT市場について、ネット上にもさまざまな報告がアップされていますが、それらの情報と本総覧はどんなところが違うのでしょうか。

花棚氏: 一概には言えませんが、ネットで公開されている情報はIoTの市場規模を大きく見せたいという意図が過剰に働いているような気がします。いまやIoTは自動車や家電、工作機械、医療機器などあらゆる製品やサービスに広がっており、それらの市場を単純に“足し算”しているのです。決して間違いではありませんが、実際にIoTビジネスに参入したいと考えたとき、知りたいのはそのような大枠な市場規模ではありません。本総覧では、よりリアルなIoT市場の動向を明らかにすることを主眼としました。

株式会社富士キメラ総研 第二部門 松本 竜也氏株式会社富士キメラ総研 第二部門 松本 竜也氏

市場規模は4500億円へ。7つの主要分野の動向を調査

――特に日本のIoT市場について、今回の調査結果から見えてきたことのエッセンスをお聞かせいただけますか。

松本氏: 本総覧では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している業界を、①製造、②自動車・運輸・交通インフラ、③インフラ、④流通・サービス・物流、⑤農業・水産業、⑥医療・介護、⑦建設・建機の7つに分け、それぞれの業界ごとのIoTソリューションへの投資動向を市場として捉え、調査を行いました。

そこから言えるのは、これまでM2M(Machine to Machine)の形で先駆的にデータ活用を進めてきた製造業界、自動車事故防止を目的とした取り組みを重ねてきた自動車・運輸・交通インフラ業界、防災対策や犯罪対策の用途で導入が進むインフラ業界などでIoT市場が拡大していることです。

これに比べると、医療・介護や農業・水産業、建設・建機の市場はまだまだ小さいのですが、それでも新たなICT活用の機運が高まる中で、今後のIoTに対するニーズの高まりが期待されています。また、業界固有の課題に加え、労働人口の減少や働き方改革、生産性向上といった共通課題もIoT市場拡大の追い風となっています。こうしたことから、あらゆる業界で堅調な伸びが予想され、7つの業界のIoT市場を合計すると2030年度には4,500億円に迫ると見ています。

資料:業界別に見たIoT市場の推定成長率(出典:富士キメラ総研「2019 センサーデバイス/ビッグデータ・IoT市場調査総覧(下巻):IoT市場編」)業界別に見たIoT市場の推定成長率(出典:富士キメラ総研「2019 センサーデバイス/ビッグデータ・IoT市場調査総覧(下巻):IoT市場編」)

――本総覧を発刊した狙いとしては、どういう方々の利用を想定しているのでしょう。

花棚氏: センサーデバイス、ビッグデータソリューション、IoTソリューション市場をビジネスフィールドとする関連事業者各社にとって、IoTビジネスに関する戦略立案・遂行に必携の市場調査資料として活用いただければと考えています。

例を挙げるとすれば、システムインテグレーション(SI)ベンダーの皆さまも主たるターゲットの1つです。IoTビジネスは期待が高まる一方で、SIベンダーにとってはマネタイズが難しく、あまり儲からないとも言われています。「PoC(コンセプト実証)など小規模な案件が多い」、「IoT投資の目的が不明確で、継続した投資につながらない」、「個別開発によるソリューションが中心となり、コスト高となる」、「セキュリティ対策が遅れており、情報漏えいなどのリスクが高まってしまう」といったことが、その背景にある課題です。

しかし、現在のIoTの国内市場において最も大きな割合を占めているのがSIであることも事実。そしてSIは今後に向けても、既存のデータやシステムと連携させて利便性を向上させるためのシステム構築などのニーズが増えていくと見られます。

IoT市場で最も伸びが予想されるのはアプリケーション

――IoTを実現する製品やサービスの市場動向に加え、注目業界別の取り組みも調査のポイントとするなど、本総覧にはIoT市場に関する多岐にわたる膨大な情報が盛り込まれています。その中からどこかを選ぶのは難しいかもしれませんが、あえて“読みどころ”を紹介していただけないでしょうか。

松本氏: これまではIoTの仕組みを開発・運用するためのプラットフォームが注目されることが多かったのですが、近年は交通インフラにおける緊急通報、製造業における工作機器の稼働監視、流通業における店内動態分析、農業における環境データ収集・分析など、特定の目的に沿ったソリューションが出揃ってきました。

IoT市場で最も伸びが予想されるのは、こうしたアプリケーションです。たとえば垂直統合型ソリューションの分野では、産業機器の予兆保全や遠隔監視、作業者安全見守りなどの需要が増えています。分析予測ツールも有望で、企業の意思決定や顧客サービス改善の迅速化が求められると同時に、投資対効果の高精度な予測や判断基準の客観性などの必要性が高まっていることを受けて導入が増えています。

こうしてアプリケーションが拡充していけば、例えば製造業などで、メーカーが構築したシステムをサービスとして取引先に提供するというというビジネスモデルも考えられるでしょう。

また、コネクティビティ分野もセキュリティ対策や5Gなどの通信サービス関連での伸びが期待され、運用サービスなども堅調な需要が予想されています。今後、IoTソリューションを提供するベンダーにとって、どこに自分たちのチャンスがあるのか、特に「業界別IoT市場編」や「製品/サービス市場編」から多くの気づきやヒントを掴んでいただけると思います。

資料:完成品メーカーを頂点とするピラミッド構造を構築している製造業界では、メーカーが構築したIoTシステムを取引先に提供するビジネスモデルも今後予想される(出典:富士キメラ総研「2019 センサーデバイス/ビッグデータ・IoT市場調査総覧(下巻):IoT市場編」)完成品メーカーを頂点とするピラミッド構造を構築している製造業界では、メーカーが構築したIoTシステムを取引先に提供するビジネスモデルも今後予想される(出典:富士キメラ総研「2019 センサーデバイス/ビッグデータ・IoT市場調査総覧(下巻):IoT市場編」)

――IoTの世界は変化のスピードが激しく、本総覧を発刊した2019年9月以降もさまざまな動きが起こっています。そうした中で新たに注目している市場のトレンドや技術はありますか。

花棚氏: これは私個人の見解ですが、今後大きな盛り上がりを見せると予想しているのが、位置情報サービスと組み合わせたIoTビジネスです。これまで位置情報サービスは米国のGPS衛星に頼っていましたが、VRS(仮想基準点方式)やみちびき(準天頂衛星システム)といったGPSを補完する位置情報サービスが登場し、より高精度で安定した衛星測位が可能になります。これに伴いIoTのアプリケーションは、さまざまな機器の遠隔操作や作業者の安全確保など、より高度なソリューションに進化していくと考えています。

――たしかに面白い展開が期待できますね。そうした将来の市場予測を含め、具体的な案件や課題に基づいてさらに突っ込んだ情報を得たいという場合、個別に相談にも乗っていただけるのでしょうか。

花棚氏: もちろん喜んで承ります。富士キメラ総研は本業として電子デバイス、先端素材、エンジニアリング、情報通信、ITソリューション、音響・映像、自動車などの産業分野について、受託調査から市場調査レポートに至る調査サービスを提供していますので、お声がけをいただければ幸いです。

――本日はありがとうございました。

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アーム株式会社

英ケンブリッジに本社を置き、半導体設計やIoTクラウドサービスを手がけています。エネルギー効率に優れた高度なプロセッサ設計は、センサーからスマートフォン、スーパーコンピュータまで、さまざまな製品に組み込まれ、世界人口の70%以上に使用されています。さらに、そのテクノロジーにIoTソフトウェアやデバイス管理プラットフォームを組み合わせ、顧客がコネクテッドデバイスからビジネス価値を生み出すことを可能にしています。
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