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「差異力」デジタルトランスフォーメーションのための武器〜VUCA時代に向けて|X-TANKコンサルティング 伊藤 嘉明 氏

これまでの常識が通用しない、混迷の時代に入りつつある現代において注目を集める「VUCA」。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取り、予測不能の現代を象徴するこのキーワードを、「TREAUSURE DATA “PLAZMA”」では初回から取り上げてきました。
「TREASURE DATA “PLAZMA” Roppongi」(2018年7月18日開催@六本木ヒルズアカデミーヒルズ)では、「『差異力』デジタルトランスフォーメーションのための武器〜VUCA時代に向けて」とのタイトルで、X-TANK コンサルティング株式会社代表取締役社長兼CEO の伊藤 嘉明 氏に、前回、前々回に引き続き基調講演を行っていただきました。かつて、ハイアールアジアに買収された三洋電機を1年でV字回復させ、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントでは 「THIS IS IT」を200万枚以上の大ヒットに導いた伊藤氏が考える、VUCA時代に必要なマインドとは。その基調講演の様子を余すことなくお伝えします。

VUCA時代に求められるマインドセットとは


伊藤氏は講演冒頭、VUCA時代をサヴァイブする姿勢、マインドから切り込みます。

Volatilityは、行動を起こし、変化を導くことの大切さを意味します。変化に飲まれるのではなく、変化を起こす側に回ることが重要です。また、Uncertainty な時代だからこそ、広い視野と異なる視座を持つことが必要になり、Complexity な状況だからこそ、柔軟性かつ創造性を持ち、明快な戦略を出すことが求められます。そして、Ambiguity な中で迅速な意思決定を行い、変革のスピードに慣れることが重要です。

まさに先が見えないVUCA時代。その象徴として伊藤氏が取り上げたのが、アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏です。伊藤氏は、「彼が、世界で一番軍事力を持つ国のリーダーとなり、ロシアや北朝鮮のトップと会談まで行なってしまう。こんなことを誰が予想したでしょうか」と投げかけます。
これからの時代に必要な要素として、「真のリーダーシップ」が求められるといいます。伊藤氏はリーダーシップの本当の意味を、「自分が自分自身の人生をリードすること」であるとします。年代や職責は全く関係なく、これからの時代に自分がリーダーとなりどう生きるか、自分で答えを出していく時代になると力を込めます。
その上で、伊藤氏はこう指摘しました。「VUCA時代において、環境変化に適応できないものは滅びます。しかし、私が関わってきた中で、このような危機感を持っている人が非常に少ない。特に、大企業の社員ほど、自社は絶対に潰れないと考えています。本当にそうでしょうか?」
近年、日本社会でも大企業の経営危機がニュースに度々取り上げられています。規模やブランドは関係なく、変化の只中で危機感を持って柔軟に対応する姿勢が、企業にとって求められる時代といえるでしょう。

VUCA時代を生き抜くための5つのアクション

自分の直感を信じること。違和感を大切にすること。業界の常識を疑うこと。常識は自分たちで作っていく。そして知識や経験よりも「姿勢」を大事にすること。学び続け、チャレンジする「姿勢」ことが重要であること。
伊藤氏は前提となるマインドセットのヒントを明らかにしたのち、VUCA時代を生き抜くための5つのアクションを以下のように提示しました。

1 比較基準を持つ

VUCA時代において業界の過去事例やトレンド、競合他社分析はアテにならない。重要なことは、違う業態、業界を分析すること。その中にこそ今後を予測するために重要なファクターが眠っている。

2 リスクを知る

何も行動せず変わらないことが最大のリスクである。15年前にスマートフォンはなかった。スマートフォンが登場し、我々の生活は大きく変化した今、多くの人はスマートフォンがない状況を想像できない。15年前のスタンダードは、今のスタンダードではない。昔の常識にとらわれていると、時代に適応できない。
その前提で、デジタルトランスフォーメーションについて理解していない現代のビジネスマンに価値はない。業績を伸ばしている外資系企業のトップは当然ながらデジタルトランスフォーメーションの必要性を理解し、学び続けている。

3 必ず時間軸を持つ

時はあっという間に過ぎる。自分の中で時間軸を持つこと。5年周期で環境の変化が起こっている今、当然のように使っているスマートフォンも無くなる時代が来るかもしれない。変化は頻繁に起こる。時間軸を意識して挑戦しないと、自らの成長は止まってしまう。

4 自分のポジショニングをする

自分のキャリアを考える上で、何をやりたくて、何をやりたくないのか。リードする存在になりたいのか、もしくはフォローする存在になりたいのか。こういったことを明確にすべきだ。そうしないと、ただ周りに流されるだけの存在になってしまう。
自分のポジショニングを確立するチャンスが到来している。例えば政府が推進する働き方改革。副業解禁や労働時間の見直しなどに注目が集まっている今こそ、新しいチャレンジができるはず。しかし副業禁止の企業もあるだろう。しかし、それで思考停止してはならない。副業とみなされるのは給与が発生するから。裏を返せば、給与が発生しなければ問題にならないということ。海外のエリートは複数のキャリアを持つのが当たり前。日本でもそうした流れはできつつある。

5 常に自分を磨く

日本のビジネスマンは諸外国のビジネスマンと比較して勉強しない。良い大学を出て、良い会社に入って、そこで終わっている人が多い。一方現実では終身雇用制度が破綻し、ひとつの社内だけで何かやるという時代は終焉している。だからこそ、会社の枠を超えて取り組むスタンスが必要。方法はたくさんある。今この会場で名刺交換をしてつながりを作るのも、その一歩になるのではないか。

「差異力」で周りと差をつける

VUCA時代で周囲と差をつけるために必要な要素として、伊藤氏が提唱するのは「差異力」です。

違和感を大切にする
違和感は直感であり、肌感覚
妥協をしないことが想像力と行動力となる
知らないことは武器になる
差別化ではなく差異化

差異力の定義を位置づけながら、伊藤氏は「違和感」をキーワードとして提示します。

「違和感」が、自らの想像力や行動力の源泉になります。常識や過去の経験に縛られていると、違和感を感じづらくなります。だからこそ、知らないことは強みになるのです。これができれば、違う土俵で戦うために差別化をするのではなく、差異化して同じ土俵で戦うことができる。

さらに、自身の経験からも、この差異力の重要性を実感しているといいます。「これまで違和感を信じてやってきたときは、ほぼうまくいきました。常識を疑い、勇気を持って行動したことは身を結ぶことが多いのです」。
「違和感を信じなかったときはほぼ失敗してきた」と語る伊藤氏。一方で、正解をどのように作るのかについて、こう説明します。

違和感を持つだけでなく、シミュレーションも徹底的にやりました。たとえば販路を増やした場合どのようなことが想定されるか、自分の中で検証します。よくシミュレーションは正解を出すためにやると考えられていますが、それは違います。想定できるパターンを積み上げて、情報をスタックすることが重要です。正解は、あくまで行動することで作っていくものです。

先が見えないVUCA時代でも、シミュレーションを徹底すれば、「半分は予測可能」と伊藤氏は言い切ります。「2020年のオリンピックまでは、政府も盛り上げようと積極的に投資するでしょう。しかし、2021年以降は景気が落ち込んでいく可能性が高いです。シミュレーションを行えば、3年後の未来がどうなっているか見えてきますし、どうすればいいか行動も見えてくるでしょう」

変革者(チェンジエージェント)になれ!

これからさらに変化のスピードを早めるであろうVUCA時代。「常識を壊し、狼煙(のろし)をあげる姿勢が求められる」と語る伊藤氏は、組織を変革するために必要な要素としてこう続けます。

変革を起こすには、コミュニケーション能力を磨き続けることです。情報感度を高めて、情報の引き出しを増やし、本質的なことを伝える能力が必要となるでしょう。これに語学力があれば、なお良しです。組織は、2:6:2の法則が働きます。組織の2割は変革を起こそうとしますが、別の2割はそれに徹底的に反対します。変革を起こす人たちにとって重要なのは、真ん中の6割をどう巻き込んでいくか。それには、高いコミュニケーション能力が必要です。

その上で、デジタルトランスフォーメーションを実現するために必要な3つの要素として「マインド、メソドロジー、テクノロジー」を挙げます。しかし、「まずはマインドが整わないと変革は進まない」。加えて「これからの日本には、変革を起こすチェンジエージェントが必要」と伊藤氏は主張します。

これまで、歴史は「よそ者、若者、馬鹿者」が創ってきました。これからの時代も、彼らがチェンジエージェントとして社会を大きく変えていくでしょう。チェンジエージェントになるためには、有言実行であることが求められます。
チェンジエージェントになる人は、どんどん周囲に宣言してください。日本で美徳とされている不言実行は、世界では付加価値がありません。ビジョンを明確にして、それを言葉にして発信すること。日本には「言霊」という言葉がありますが、言葉で発することで、身体を作る60兆個の細胞が反応して実現に向けて動き出すという説もあります。言葉にはそれだけの力があるのです。

伊藤氏は自身が有言実行すべく、ビジョンを宣言、コミットし、こう力強く講演を結びました。「私はこれから、300人の変革者を生み出します。これだけの変革者がいれば、日本はアジアでまだまだ戦えるはずです」

「できるかどうかではなく、やるかやらないか」

講演後は、「TREASURE DATA “PLAZMA”」でプロデューサーを務める株式会社HEART CATCHの西村 真里子 氏と、トレジャーデータでマーケティングを担当する堀内 健后も登壇し、パネルディスカッション形式で参加者からの質問を受け付けました。

― 違和感があって行動しようとしても、その結果会社の方針と違うことをして評価が下がるのが怖いです。この恐れをどう対処したら良いでしょうか

伊藤氏はこう回答します。「良い質問ですね。私もそういう時期はありました。当時は会社の方針と違うことをやることで、クビになるのが怖かった。ただ、どうせ死ぬことはないと考えられるようになって、恐れはなくなりました。仮にクビになっても、別の企業があると考れば大丈夫と。おそらく、今の企業に居続けることを考えなくなると恐れを払拭できるはずです。そして、もうひとついうと、自信は持たないほうが良い。確信に持っていけるように自分を奮い立たせること」。

― 2:6:2において多数を占める6割をどう引き込めば良いか

「保守的な企業・業界だと変革はより大変だ」と伊藤氏は自身の経験から語ります。その状況でも、トップの2割は比較的見つかりやすいはず。あとは、6割の人たちに発信し続けること。
日本人は、物事を斜めから冷ややかに見る習性があります。そんな人にも、伝わるまで愚直に伝える。実はそれが一番の近道です。また、外部の専門家に講演をしてもらったり、海外の最新事情などを社内に知らせること有効です」と回答しました。

― 私はある大手企業にいましたが、やりたいことができず、独立しました。今日の講演は共感する部分も多く感動しました。今、有志で集まってイベントなどを開いているのですが、伊藤様にぜひ講演にいらしていただきたいです!

まさかの講演のオファー。この行動を伊藤氏は「これこそがVUCAに必要なこと」と絶賛し、協力を約束していました。また、今日、今から行動に移すことが重要と改めて強調しました。

また、西村氏、堀内からも伊藤氏の講演に対して言及がありました。堀内は「それぞれ違うコミュニティに所属していても、人が媒介になることで接触しやすくなるし、交わり合うイベントは増えている。そこで生まれる新たな価値があるのではないでしょうか」とコメント。それに対して伊藤氏も同調し、「できるかどうかではなく、やるかやらないかの姿勢の問題」と言及し、あらためてコミュニケーションの重要性を説きました。
また、西村氏は「テクノロジーの進化が講演の中にありましたが、AIの進化を追うことで、私たちもアップデートできるように感じます。今後もテクノロジーをウォッチすることはますます重要になりますね」とし、マインド、メソドロジー(方法論)、そしてテクノロジーという、デジタルトランスフォーメーションを実現する3つの視点を改めて示して、パネルディスカッションのまとめとします。
「東京をデジタルアップデートする」。「TREASURE DATA “PLAZMA” Roppongi」は、会場の心地よい高揚感とともに幕が開きました。

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