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IoTプラットフォームの役割とアライアンスの価値

IoTプラットフォームの本質――IoTビジネスのトレンド&ストラテジー(02)

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前回は、“IoTプラットフォーム”のイメージをできるだけ分かりやすく整理してお伝えしました。IoTプラットフォームは、モノ(ハードウェア)から取得したIoTデータを、コト(IoTサービス)に変えて提供する役割を担います。

一般的なIT(情報技術:インフォメーション・テクノロジー)と、IoT(モノのインターネット:インターネット・オブ・シングス)との違いは何でしょうか? IoTはITと異なり、モノ(自動車やエンジン、エレベータなど)にセンサーやカメラを付けてモノのデータを収集し、そのデータを解析して、解析結果を使ったサービスによる価値(メリット)を創出する仕組みが含まれます。収集したデータは、AI(人工知能)や統計解析処理を行うことで、さらに高い効果や付加価値を生むことができます。

これは、皆さんには当たり前の理解かもしれません。ところが、筆者が経営者の方々とお話すると「ITとIoTは何が違うの?」という質問が実は一番多いのです。

今回は、まずIoTの導入メリットについて具体例を示し、次にそれを可能にするIoTプラットフォームの役割と構成について紹介します。

IoTの導入メリット

ここからIoTの導入メリットについて、エレベータを例に挙げて説明しましょう。

これまでエレベータの稼働監視は、機内カメラによる目視が一般的でした。遠隔にある管理センターの担当者が、カメラの映像を目で見て確認するわけです。しかし高層ビルが急増しているため、そのサポート&メンテナンス対応を担う企業の人手不足によるサービスレベル低下が懸念されています。

また、地震などによる大規模災害時には速やかな救出が求められますが、エレベータは建物やメーカーによって仕様や設定が異なるため、その対応はますます困難になっています。さらに、エレベータが故障した場合、技術者の手配や交換部品の調達などで修理完了まで1週間以上掛かるケースも珍しくありません。

こうした状況を踏まえて、エレベータメーカー各社やエレベータのメンテナンス&サービスを請け負う企業は、IoT導入による対応に注力しつつあります。

図1 IoT導入による効果の例
図1 IoT導入による効果の例

 

図2 エレベータのメンテナンス&サービスにIoTを導入
図2 エレベータのメンテナンス&サービスにIoTを導入

 

エレベータのメンテナンス&サービスにIoTを導入することで期待できる効果は、次のようなものがあります。

  1. 稼働状況の見える化(常時監視)による見守り
  2. 稼働のデータ活用(データ収集・解析)による故障やトラブルへの速やかな対処および製品カイゼン
  3. モノ+コト制御(CPS*:リアルタイム双方向)によるエレベータ管理の最適化や新しいビジネスモデルの創造

すでに、ドイツのティッセンクルップ・エレベータ社と米マイクロソフト社が協業して、クラウドやAI(機械学習)、ホロレンズを使ったMR(ミックスド・リアリティ:複合現実と言う、現実の映像にCGの3D画像を重ね合わせる技術)の実用化に取り組んでいます。

こうしたテクノロジーを利用することで、これまで人が行っていたエレベータのメンテナンス&サービスを革新し、はるかに高機能で高品質のサービスを、少ない人員で提供することを目指しています。

こうした仕組みは、大きく3つの階層に分けて考えられます。一番上の階層は、エレベータ監視センターでサポートする全てのエレベータの監視をしているシステムです。クラウド上に、エレベータ管理用のアプリケーション(サーバー・アプリケーション)を構築して稼働管理サービス(サーバー・プラットフォーム)を提供します。

次に、インターネットや無線通信などのネットワークを介して、エレベータ本体の階層があります。ビル内エレベータの稼働管理を行うアプリケーションが動く基本ソフト(エッジ・プラットフォーム)や、そのデータを管理するシステムが動いています。通常時は、このシステムに蓄積されたデータを随時(例:カメラ映像のストリーミングなど)または定期的に(例:1日ごとに稼働データをまとめて)、ネットワーク経由でセンター側へ送ります。エレベータ本体を構成する部品や機器類(パーツ、デバイス)にもそれぞれにPLC/センサー/チップなど電子部品が組み込まれています。

つまり3階層のイメージは、下からだと、部品「パーツ、デバイス」、これらが組み込まれているエレベータ本体の完成品「プロダクト」、そして全てのエレベータを束ねているサーバー(クラウド)という構成になります。

*CPS:サイバー・フィジカル・システム(Cyber Physical System)

IoTプラットフォームの役割と構成

IoTの仕組みを構成しているのは、製品(エレベータなどの完成品)と、その中に組み込まれているパーツやデバイス、そしてネットワーク経由で製品を束ねるサーバー(クラウド)という階層構造になります。

IoTプラットフォームは、サーバー(クラウド)の側にあるサーバー・プラットフォーム層と、製品の側にあるエッジ・プラットフォーム層があります。IoTプラットフォームを提供するベンダーもこの上下二層の両方を提供するケースもあれば、どちらか一層だけを提供するケースもあります。

ここで具体的な例を挙げて説明すると、エッジとは、誰もが持っている携帯電話機やタブレットなどの機器を指しています。携帯電話機は、いろいろな部品から作れられています。この中には、さまざまなチップやセンサーが内蔵されていて、そこから得られるデータを使ったアプリでサービスを提供することができます。

この携帯電話機やさまざまな機器に組み込まれている部品のひとつに半導体チップがあります。英アーム(Arm)社は、半導体の中核回路(CPUコア)の大手であり、Armベースのチップが世界ですでに1250億個以上出荷されていますから、私たちの日常生活において最も身近なIoTパーツだと言えます。Armベースのチップは、携帯電話機や多種多様な機器に組み込まれ、それらの製品を利用して我々は便利なサービスを手に入れています。

さらに、それらの携帯電話機や機器に向けて、通信事業者(キャリア)やメンテナンス&サポートを提供するベンダーが管理サービスを提供しています。コンテンツ配信や各種のデータサービスは、こうした仕組みの上に成り立っているわけです。つまり、IoTプラットフォームは、複数のベンダーや相互に役割分担してサービスを提供しています。

たとえば先述のArm社も「Pelion(ペリオン)」と呼ぶIoTプラットフォームをクラウドサービスとして提供しています。Pelion自体もデータ管理の機能を備えていますが、AWSやAzureといった他社のクラウドサービスにつないでそちらのストレージや各種アプリケーションを利用することも可能です。

また同社はIoTデバイス向けのオープンソース組み込みOS(エッジ・プラットフォーム)として「Mbed OS(エンベッド・オーエス)」を無償提供しており、Pelionが備えるデバイス管理の機能を簡単に利用できる環境を整えています。

さまざまなデバイスから取得したデータを、ネットワークを介してPelionやTreasure Data CDP、他ベンダーのIoTプラットフォームへ連携することも可能です。このようにIoTは、ベンダー間のヨコの連携(水平連携)と製品内のタテの連携(垂直連携)の2つの連携があります。これによって、柔軟で自由なIoTサービスを短期間に開発・提供することができます。

前世代の携帯電話機や機器は、メーカーごと・機種ごとに仕様も設計も異なっていたため、互換性がありませんでした。電話帳などはかろうじて吸い上げることも可能でしたが、画像やデータ、アプリなどは全く継承できませんでした。

もし、共有できるデータの互換性があれば、異なる機種へ情報を受け渡すことが可能になります。つまり、データのタイプごとに規格を決めておいて、それを異なる機種や異なるプラットフォームでも読み替えられる互換性を持てば、データを幅広く共有することができます。たとえメーカーが異なっても、情報が共有できれば利便性は向上します。幅広くデータ共有するためにはIoTプラットフォーム間でデータの互換性を持つことです。互換性があれば、情報を簡単に共有し、利用することができます。

図3 IoTプラットフォームの垂直連携
図3 IoTプラットフォームの垂直連携

 

図4 IoTプラットフォームはデバイスデータを活用したデジタル変革の中核を担う(出典:アーム、トレジャーデータ)
図4 IoTプラットフォームはデバイスデータを活用したデジタル変革の中核を担う(出典:アーム、トレジャーデータ)

 

なぜアライアンスが重要なのか

今回は、IoTプラットフォームの役割と構成について紹介しました。ユーザーが求めるIoTサービスを提供するには、複数の企業がそれぞれ得意とする機能を構成要素として組み合わせなければなりません。それを支えるのがIoTプラットフォームです。

その役割は、イメージとしてレゴブロックを組み合わせるような感じです。ブロックのサイズや穴の位置が決まっているので、さまざまな形状のブロックを組み合わせてサービスを簡単に作ることができます。全て自前で開発するよりも、早くて安くて簡単です。

この発想こそ、アライアンス戦略がIoTプラットフォームで重要な価値を持つ理由です。こうしたベンダー間連携が進むと、現時点では数多く存在しているIoTプラットフォームは統廃合され、少数の大きなエコシステムに絞られていくと予想されます。

 

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

同志社大学 工学部 化学工学科(生化学研究室)卒業。1989年総合化学メーカー米デュポン社(現ダウ・デュポン社、農業用製品事業部所属)入社。1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(プロセス系:化学プラントや医薬品開発など、ディスクリート系:組立加工工場や保全など)の業務コンサルティング、システムの調査・企画・開発・導入の支援に携わる。2015年より一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)サポート会員となり、総合企画委員会委員、IVI公式エバンジェリストなどを務める。
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