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「IoTプラットフォーム」とは何なのか?

IoTプラットフォームの本質――IoTビジネスのトレンド&ストラテジー(01)

“IoTプラットフォーム”という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。では、「IoTプラットフォームについて教えてください」と言われたときに、皆さんはどう答えますか?

この質問は、相手がどのような立場で何を知りたいのかによって、求められている答えが大きく変わります。相手がプラットフォームを利用する立場のユーザー企業ならば、自社のIoT導入に最適なIoTプラットフォームは何が良いのかを聞いています。

IoT関連のシステムやデバイスなどを取り扱っているベンダーからの質問ならば、そのベンダーのIoTビジネスが成功するためにIoTプラットフォームにどれを選べば良いのかを聞いています。

そして、IoTプラットフォームそれ自体を提供するプラットフォーマーを目指すベンダーは、競合するIoTプラットフォームの強みと弱みを知りたいのです。

つまり、質問される相手によって、IoTプラットフォームについての回答は変わります。さらに、業種・業態、国や地域、用途や階層など、前提条件によっても正しい答えが違います。このコラムでは、こうした要望に応えた「IoTプラットフォームの本質」について迫りたいと思います。IoTプラットフォームに関する最新トレンドや、IoTプラットフォームに関わる方々の悩みや疑問を解消できるような情報発信を目指しています。そういう思いを込めて、この連載タイトルを「IoTプラットフォームの本質――IoTビジネスのトレンド&ストラテジー」としました。

そもそも"プラットフォーム"とは何か?

IoT以外の分野でも、“プラットフォーム”という言葉は長年使われてきました。たとえばIT分野でプラットフォームと言えば、“システム動作環境”や“ソフトウェア開発基盤”を指すことが多く、イメージしやすい例としてはアップル社のiPhone/iPadとiOSが挙げられます。

ご存じの通り、日本のスマートフォンの半分はiPhoneという時代です。スマートフォンという製品を生み出したアップル社のビジネス戦略は、PCのようにソフトウェア(アプリケーション)で柔軟に機能が追加でき、ネットワークを介して幅広いサービスが利用できるという、携帯電話の新たなエコシステムとビジネスモデルを生み出すことでした。

スマートフォンは、携帯電話の一種ですが、実際には電話として利用するよりもネットワークにつながった情報端末という使い方の方がメインです。スマートフォンの魅力は、豊富なアプリケーションを自由に利用できることと、欲しいサービスが手軽で安価に即時入手できることでしょう。それを実現するために、プラットフォーマーであるアップル社は、1つの“プラットフォーム”として、(1)ハードウェア「iPhone」の開発、(2)アプリケーション(アプリ)を稼働させる基盤ソフトウェア「iOS」の開発、(3)アプリを流通させる仕組み「App Store」とその課金モデルを構築しました。

そして、このプラットフォームに参画するパートナー(通信キャリア、ソフトウェア開発者、コンテンツ提供者など)のアライアンスを作りました。このビジネスモデルの有効性は、20年前に倒産寸前だったアップル社が復活を遂げ、時価総額1兆米ドルを世界で初めて突破した企業になったことからも明らかです。成功のキーワードは、“データ”、“ソフトウェア”、“サービス”にあります。これを産業用途向けに展開する中心にあるのが“IoTプラットフォーム”です。

IoTにおけるプラットフォームの役割

“IoTプラットフォーム”を筆者は次のように定義します。つまり、モノ(自動車や機械やエンジンなどのハードウェア)から“データ”を収集し、膨大なデータを解析して得た価値ある情報を取り出して、“ソフトウェア(IoTアプリケーション)”を介して価値ある“サービス”を作り出し、企業や人へ提供するための基盤です。

図1 IoTサービスの開発・提供
図1 IoTサービスの開発・提供
IoTは複数システム群で構成されたソリューションであり、何らかの「サービス」をユーザーへ提供する。ロボット・設備のセンサーやデバイスから収集したデータを、クラウド上のIoTプラットフォームで蓄積・管理。そこに集まった膨大なデータはソフトウェアで処理し、IoTモニタリング/メンテナンス/コントロールなどの要件にあわせてIoTサービスが提供される。

 

例えば、航空機に搭載されているエンジンから入手したIoTデータを蓄積・解析すると、最も燃費効率が高い航路を見つけたり、エンジンの振動やノイズから故障やトラブルを未然に察知したりできます。

例えば、エレベータに搭載されているカメラや重量センサー、振動センサーなどのデータをネットワーク経由で入手すれば、遠隔からでも故障やトラブルに即応できます。また、地震や火災などの災害発生時にはエレベータに閉じ込められた人を感知して、緊急性の高いエレベータから救出作業が可能です。

これまでは、エレベータに閉じ込められた人が、機内電話でサポートセンターへ連絡するか、サポートセンターの担当者が閉じ込められた人がいるかどうか機内カメラで目視確認していました。しかし人手不足の昨今、このやり方では大規模な災害時に効率的に救出を進めるのは難しいでしょう。

このような産業向けの“サービス”提供には大きなニーズがあり、その“サービス”を提供する“ソフトウェア(IoTアプリケーション)”の開発と、“データ”の取り扱いに優れたIoTプラットフォームが重要となります。これまでは、エンジンメーカーやエレベータメーカーが自社製品だけのためにアフターサービスを提供していましたが、他社の製品にも幅広く対応することで利用が拡大してコストダウンとサービス品質の向上が期待できます。これが、産業向けIoTプラットフォームが登場した理由です。

ポイントは、他社の製品に幅広く対応していることと、多種多様なサービスが提供されることです。1つの企業が全てを揃えるのは難しいので、企業がパートナーを組んでユーザーのニーズに応えます。それぞれの企業が役割分担して価値を提供するわけです。これを「エコシステム(生態系)」と呼びます。

IoTプラットフォームの構成や内容については、次回詳しく紹介します。

IoTプラットフォーム最新トレンド(2019年7月現在)

ここではIoTプラットフォームの最新トレンドをお伝えしましょう。図2をご覧ください。

図2 IoTプラットフォーム動向:主要ベンダー相関図(2019年7月版)
図2 IoTプラットフォーム動向:主要ベンダー相関図(2019年7月版)
この図の読み方について、さらに詳しくは次の記事を参照。IoTプラットフォームとは何か? 正しい選択をするためのたった1枚のスライド(ビジネス+IT)

 

この図は、IoTプラットフォームを提供するプラットフォーマーの所在地域とベンダー間連携について示したものです。黒枠はIT系ベンダー、緑の二重線枠はメーカー系ベンダー、黒枠の破線は通信系ベンダーです。

赤枠はIoTプラットフォームを提供する主要ベンダーとして複数ベンダーと連携するアライアンスを組んでいるベンダーです。この赤枠ベンダーには、米国のマイクロソフト社やAWS社、ドイツのSAP社やシーメンス社などがありますが、いずれも多くのベンダーとの連携を行っています。連携する先のベンダーが多く、アライアンスを束ねる役割に就いているのがポイントです。

例えばマイクロソフト社は、コマツの「LANDLOG」やDMG MORIの「ADAMOS」、ハノーバーメッセ2019で発表された独BMW社の新しいIoTプラットフォーム「OMP:Open Manufacturing Platform」とのアライアンスもあります。シーメンス社の「MindSphere(マインドスフィア)」は、ドイツ国内ベンダーとのアライアンスのみならず、中国ファーウェイ社、ベトナムのFTP社、ジェイテクトなどが連携しています。

こうした戦略的なアライアンスを展開しているのが、先行する欧米主要ベンダーの強みです。企業間連携によって、共有できるIoTデータが拡大するとともに、IoTプラットフォームの上で稼働するソフトウェア(IoTアプリケーション)も増えます。

日本企業は、IoTに対する取り組みが遅かったことから、IoTプラットフォームに対して本腰を入れたのは2018年以降です。筆者はこの主要ベンダー相関図を2015年から継続して作成していますが、すでにこの図には収まらないほどたくさんの国産IoTプラットフォームが登場しています。

乱立状態ですが、ひと目見て分かる国産の特徴は、「どこにもつながっていない」ベンダーが多いことです。すべての仕組みを自前で全部揃えるひと昔前の“囲い込みモデル”で進めているため、どこにもつながっていません。IoTプラットフォームの上で動くソフトウェア(IoTアプリケーション)も少ないので、ユーザー企業にとっては、欲しいサービスが無ければ自前でIoTアプリケーションを開発するしかありません。

先にITプラットフォームの事例として紹介したアップル社同様に、IoTの本質はつながってエコシステムを作ることで、幅広いIoTデータとIoTアプリケーションを利用可能にすることです。しかし、日本のベンダーはそれを理解していないようです。ダメなIoTプラットフォームをひと目で見抜くには、パートナー制度の有無とIoTアプリケーションの数に着目してください。今後は、IoTプラットフォームの淘汰が始まると予想されますから、競争に負けたベンダーは市場から消え去ることになります。ベンダー間で連携するのは、生き残るチャンスを増やすという意味でも必然だと言えるでしょう。

今回は、連載の第1回目ということでIoTプラットフォームのイメージとトレンドを中心に紹介しました。繰り返しになりますが、このIoTプラットフォームというテーマは、IoTという技術を利用するユーザー企業、IoT関連ビジネスを提供するベンダー、そして行政や通信や各業界などの方々にとってもビジネスチャンスが見込める新しい領域です。新しいサービスの提供や、そのビジネスモデル、競合する他国他社の動向など、興味は尽きません。本連載では、そうした幅広いトピックについて、テクニカルな情報や最新トレンドなどを織り交ぜて情報発信して行ききますので、ぜひご注目ください!

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)株式会社フロンティアワン 代表取締役

同志社大学 工学部 化学工学科(生化学研究室)卒業。1989年総合化学メーカー米デュポン社(現ダウ・デュポン社、農業用製品事業部所属)入社。1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(プロセス系:化学プラントや医薬品開発など、ディスクリート系:組立加工工場や保全など)の業務コンサルティング、システムの調査・企画・開発・導入の支援に携わる。2015年より一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)サポート会員となり、総合企画委員会委員、IVI公式エバンジェリストなどを務める。

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