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まちづくりにAI・IoTを活用する竹中工務店、目指すはサステナブル社会の実現

株式会社 竹中工務店
情報エンジニアリング本部 主任
粕谷 貴司氏

「2025年の成長戦略」に基づいて、グループ全体の事業領域を「まち」と捉え、取り組みを推進する株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)。まちづくりの構想段階から、企画、設計、建設、維持運営に至るまでのライフサイクルすべてにおいて、グループ各社が連携し、人々が安心して暮らせるまちづくりを通じて、サステナブル社会の実現を目指している。その一環として、AI、IoT、クラウドを活用したスマートビルの実現を推進。情報エンジニアリング本部 主任である粕谷貴司氏に、IoT時代のセキュアなビル管理システムについて話を聞いた。

IoT時代のビル管理システムのあるべき姿とは

「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」という経営理念に基づき、顧客の期待に応える建築を提供する竹中工務店。常に時代の変化に敏感であるために、絶えず人々との対話を重ね、技術の研鑽(けんさん)を続けることで、時代が求める最良のソリューションを提供している。かつて建物は、照明は照明、空調は空調で制御が分かれていた。しかし現在の建物は、センサーの塊であり、照明や空調などがシステムとして一元管理されている。

さらに近年では、AIやIoT、ビッグデータなどの新しい技術も採用。各種センサーが集めたビッグデータを、クラウドに蓄積し、AIで分析することで、照明や空調の最適化、エネルギーの需要予測などを自動化する「Society 5.0(ソサエティ5.0)」の世界が広がりつつある。これを具現化する竹中工務店のシステム基盤が、クラウドを活用したビル管理システム「ビルコミュニケーションシステム(以下、ビルコミ)」である。

資料:業界に先駆け建物専用ビッグデータ基盤「ビルコミ®」(ビルコミュニケーションシステム)を構築

ビルコミは、建物の各システムをセキュアな環境下でクラウドに移行して、高度なネットワーク技術とオープンな技術を組み合わせることで、スマートビルを実現する建物専用のビッグデータ分析基盤だ。これまでの現場の手作業によるビル管理から、最新鋭のビル管理システムを備えた建物へのリニューアルを実現し、継続的な機能更新、柔軟なサービス拡張を実現するとともに、複数の建物の一元的なビル管理の効率化も可能になる。

ビルコミの事例の1つとして、メルセデス・ベンツ日本株式会社とのコラボレーションにより、モビリティとリビングの未来の形を具現化した体験施設「EQ House(イーキュー ハウス)」を、2019年3月から約2年間の期間限定で、六本木(東京都港区)にオープンしている。粕谷氏は、「EQ Houseには、デジタル情報を活用した設計・生産技術や、AIを搭載した近未来の建築技術など、竹中工務店の多くの技術が採用されています」と話す。

たとえば、千数百枚の外観パネルは、デジタル情報を活用した設計・生産技術を活用し、24時間365日の日照パターンをシミュレーションすることで、EQ Houseの来場者が快適と感じるデザインになっている。各外観パネルは、個別のIDで管理され、施工場所などの必要な情報を、スマートグラスなどのデバイスやAR技術を使用することで提供し、建築現場での作業を効率化している。

さらにAIを搭載した近未来の建築技術を活用することで、来場者の好みや快適性を、AIが学習し、よりパーソナライズされた快適な空間を実現することができる。粕谷氏は、「照明や空調のシステム、電力マネジメントシステムなどを、ビルコミが制御しています。また、AIにより、建物内の人が快適に過ごすことができる環境を、Archiphilia Engine(アーキフィリアエンジン)で実現。人とともに成長する家を目指しています」という。

資料:ビルコミ事例(AIを搭載した近未来の建築技術を活用することで、来場者の好みや快適性を、AIが学習し、よりパーソナライズされた快適な空間を実現)

Archiphilia Engineは、HEROZ株式会社のAI技術「HEROZ Kishin」とビルコミにより収集、保存されるデータを機能連携させた空間制御システムである。IoTセンサーから取得したビッグデータを、AI技術により解析し、これまで手作業で行っていた照明や空調などの運転条件を自動的に最適化して、省エネや作業負荷の軽減を実現する。今後、BACnet(建物設備システム向け通信の標準規格)などの技術を利用する機能拡張も検討されている。

粕谷氏は、「スマートビルの実現における最大のチャレンジは、いかに建物設備以外の業界の人たちを、建設業界に巻き込んでいくかです。そのためには、BACnetのような専門的な技術も必要ですが、AIやIoT、クラウドなど、より標準的な技術とセキュリティを統合して活用していくことが重要です。一方、課題は、建物における設備セキュリティリスクに対する意識が低いことです」と話している。

ビル管理システムにおけるセキュリティリスクの実情

これまでの建物設備システムは、スタンドアロンで構築されていることが多く、ネットワークを介して外部から制御することはできなかった。そのため、建物の内部に物理的に侵入されなければ、ハッキングされるリスクは無視できた。しかし近年、建物設備がネットワークに接続され、遠隔から集中管理されることも増えてきた。粕谷氏は、「建物設備の高度化により、セキュリティの問題が顕在化してきました」と指摘する。

中でも、標的にされやすいのがIoT機器である。IoT機器が狙われやすいのは、大きく4つの理由がある。すなわち、(1)24時間365日ネットワークに常時接続されていること、(2)セキュリティ対策が不十分な機器が多く、脆弱性により侵入が比較的容易なこと、(3)IoT機器のボット化はPCよりも費用対効果が高いこと、(4)セキュリティアップデートがなされていない機器が多いことである。

竹中工務店では、SBテクノロジー株式会社、サイバートラスト株式会社の協力のもと、所有ビルで「セキュリティ脆弱性診断」の実証実験を実施。OA系ネットワーク経由、および設備系ネットワーク経由でのサイバー攻撃を実施することで、社内のビル設備システムの脆弱性を診断した。その結果、社内サーバーの脆弱性を突いて、実際にバイナリを分析し、パスワードを推定して、建物の管理サーバーに侵入されてしまった。

粕谷氏は、「外部からファイアウォールを越える攻撃では侵入されませんでしたが、内側からは、時間をかければ侵入が可能でした。具体的には、Webサービスの仕組みが直接見えたり、データベースサーバーに直接アクセスできたりです。原因は、建物設備サーバーのセキュリティアップデートがされていないことです。セキュリティレベルの高い建物でも侵入できたことから、同様のセキュリティレベルの建物が多く存在することは想像に難くありません」と警鐘を鳴らす。

資料:当社(竹中工務店)所有ビルでのビル設備脆弱性診断の実証実験を実施

こうしたサイバー攻撃からビル設備システムを守るためには、設計プロセスにおけるセキュリティガイドラインの策定が必要になる。粕谷氏は、「4、5年前から、データセンターをはじめとするミッションクリティカルな設備に関して、ガイドラインが必要だと感じていました。そこで、日本データセンター協会や経済産業省のワーキンググループの活動に参画し、メンバーと一緒にセキュリティガイドラインを策定しました」と話す。

策定された日本データセンター協会の「建物設備システムリファレンスガイド」では、基本的なセキュリティ管理項目を整備した。21項目に分かれて解説されているが、基本的には建物ごとにネットワーク分離をすることが推奨されている。また、パスワードをしっかりと設定したり、ログをしっかりと取得したりすることも必要になる。さらに、チェックリストを作成し、納品するときに添付することも必要だ。

粕谷氏は、「2018年ごろから、ネットワークセキュリティやエンドポイントセキュリティなど、サイバーセキュリティに取り組むベンダーも増えてきました。現在、経済産業省の活動である産業サイバーセキュリティ研究会の第2期もスタートしています。ここでは、サイバー攻撃を受けたときに、どのように対処するかをガイドラインとしてまとめていくことを目指しています」と話している。

人中心の建物・まちづくりに向けてテクノロジーに期待

竹中工務店では、スマートビルの次の取り組みとして、サステナブル社会の実現を目指している。その一環として、「人中心」の建物・まちづくりを目指す「人流データ」の活用を進めている。人流データの活用により、ある場所の通過人数分析やヒートマップによる混雑分析、主要導線分析、特定軌跡分析、遷移割合分析などが可能。付加価値の高い、魅力のある建物・まちづくりが期待できる。

粕谷氏は、「人流データは、建物データとは少し違う性質のデータであり、いろいろなデータを連携して、人の動きを把握するためのインフォメーションモデルの作成が必要になります。このとき、トレジャーデータのカスタマーデータプラットフォーム(CDP:Customer Data Platform)は、人の動きをリアルタイムに予測するための分析などに役立つかもしれません。ただし、人流データの活用は、今後の取り組みとなります」と説明する。

また粕谷氏は、クラウド経由でさまざまなデバイスを管理するためには、ArmのようなIoTプラットフォーム・プロバイダーが提供するハードウェア認証サービス基盤を活用するケースが考えられるという。たとえば、IoTのゲートウェイや建物のゲートウェイが必要となったときに、ハードウェアをいかに認証するかが課題となる。認証できなければ、そのハードウェアは信用することができない。スマートシティの実現においては、信頼できるハードウェアから信頼できるデータを取得することが、非常に重要になる。

「建物にはフィジカルセキュリティもあり、その一環としてサイバーセキュリティを考えることがほとんどです。フィジカルセキュリティがしっかりしていれば、サイバーセキュリティが破られることはそれほど多くありません。今後は、ハードウェア認証サービス基盤の利用が当たり前になってくるのではないでしょうか。ただし、広く普及するためにはもう少し時間がかかりそうです。それには、フィジカルとサイバー、それぞれのセキュリティを総合的に判断することが重要です」(粕谷氏)。

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アーム株式会社

英ケンブリッジに本社を置き、半導体設計やIoTクラウドサービスを手がけています。エネルギー効率に優れた高度なプロセッサ設計は、センサーからスマートフォン、スーパーコンピュータまで、さまざまな製品に組み込まれ、世界人口の70%以上に使用されています。さらに、そのテクノロジーにIoTソフトウェアやデバイス管理プラットフォームを組み合わせ、顧客がコネクテッドデバイスからビジネス価値を生み出すことを可能にしています。
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