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データと社会の関係性を「会いに行ける大臣」と考えよう|オードリー・タン氏 × 関 治之氏 × 若原 強

PLAZMA12 SPECIAL TALK|
台湾デジタル担当大臣 オードリー・タン氏
コード・フォー・ジャパン 関 治之氏
トレジャーデータ 若原 強

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新型コロナウイルス対策において、台湾の「デジタル担当大臣」を務めるオードリー・タン氏の取り組みは日本でも大きく注目されました。「マスクの在庫状況を可視化するシステムが、わずか数日で構築された」というニュースを覚えている人も少なくないでしょう。

日本における新型コロナウイルス対策でも、デジタルテクノロジーを活用したスピード感ある取り組みが話題となりました。その1つが、数日のうちにリリースされた東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」です。オープンソースプラットフォームGitHub上で公開された「新型コロナウイルス感染症対策サイト」のプロジェクトには、オードリー氏がコミットしたことでも知られています。
台湾のデジタル政策を牽引するオードリー・タン氏、東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」を推進したコード・フォー・ジャパンの代表理事を務める関治之氏に、トレジャーデータのエバンジェリスト若原強がお話を伺いました。

日本の「大臣」と台湾の「minister」の差

若原 オードリーさんは以前あるインタビューにおいて「わたしは、政府と『一緒に』仕事をしているのであって、政府の『ために』仕事をしているわけではない」と回答されていました。
日本では「大臣」と聞くと「政府の頂点にいる偉い人」というイメージを持ちやすく、オードリーさんの発言から受ける「大臣」の像とはかなり異なる印象です。オードリーさんはなぜ「政府と一緒に」という立場を採られているのでしょうか?

オードリー このような発言を掘り下げていただけるのはとてもうれしいですね。ありがとうございます。
日本語の意味での「大臣」を英語で表記すると「Minister」となるでしょう。大文字の「M」が使われた「Minister」です。ただ、私はいつも「m」が小文字の「minister」なのだと言っています。

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中国語での「大臣」には日本語での「使節団」「派遣団」といった「複数形」のニュアンスがあり「みんなのための代表」という意味を持っています。私は「デジタル担当大臣」とは、みんなの代表であり、みんなを後押しするポジションだと考えています。もちろん、デジタル担当の代表者が複数人いてもいいと思います。ですから、いつも「minister」という言葉を使っているのです。

若原 同じインタビューで「わたしは世代間、セクター間、文化間の連帯を構築する『チャンネル』なのです」とも答えていらっしゃいました。なぜ「チャンネル」という言葉を選ばれたのですか?

オードリー この「チャンネル」の意味は「チャットルーム」と似たイメージですね。私は、多様な価値観を持った方々が、様々なディスカッションをし、共通の価値観を見つけるための議論の場所を提供しているにすぎないのです。

私は、毎日の自身の活動に「徹底的な透明性」を追求しています。今日のオンラインディスカッションも録画をして、インターネット上に公開します。その映像はクリエイティブ・コモンズのライセンスを付与して公開します。ライセンスに則って、例えばヒップホップのミュージシャンがサンプリングして作品に活用してもいいのです。
多種多様な立場の方々が、自分たちの安全性を私と一緒に確保しながら様々な視点を体験できる、そのような場所を提供しているイメージで「チャンネル」という言葉を選びました。クローズドな空間で選ばれた数人だけが会議をする古いオフィスとは反対ですよね。私にとって徹底した透明性は、とても大切なことです。

「チャンネル」としての「大臣」を成功させた「3つのF」

若原 オードリーさんの「チャンネル」としての役割を台湾政府が受け入れているのは、どこに要因があるのでしょうか? やはり「徹底的な透明性」がポイントですか?

オードリー そもそも私たちがなぜこれほどまでに「透明性」を実現できているのかという経緯からお話しますね。
時は2014年3月にさかのぼります。当時は中国国民党が政権与党でした。国民党政府は、中国と台湾間の通商合意「海峡両岸サービス貿易協定」の批准に向けた発表を行いました。

ところが、この協定は議会による十分な審議がなかったため、抗議する路上でのデモがスタートしたのです。この一連のデモは「ひまわり学生運動」と呼ばれています。

デモの多くは「政府に透明性を求める」という考えを叫ぶものでしたが、立法院(注:日本の国会議事堂に該当する)の占拠も行われました。このときには50万人が集まり、さらにオンラインを含めればもっと多くの方が参加していました。私たちはこうした大勢の国民のコンセンサスを聞いてほしいと訴えたのです。

その後、2014年11月に行われた中華民国統一地方選挙では、政党に関係なく「オープン・ガバメント」つまり「開かれた政府」という運動を支持したすべての市長が当選しました。現在の副総裁は当時台南市長としてこの運動に賛同しましたし、台北市長も賛同しています。

こうして「オープン・ガバメント」は、新たな政治的標準となったのです。そして、「ひまわり学生運動」を推進した人々や支援した人々も「リバース・メンター」として内閣に招かれました。私が2016年に現職に就任したのも、リバース・メンターとしての働きの延長にあるのだと思います。

若原 ありがとうございます。透明性を獲得し、現在も重要視している経緯がよく理解できました。

オードリー その上で先ほど質問をいただいた「チャンネル」としての役割が成功している要因についてお答えすると、「3つのF」を挙げることができます。それは「Fast(速さ)」「Fair(公平さ)」「Fun(楽しさ)」です。

例えば、毎週水曜日に私は執務室を開放していて、誰でも予約なしで私と話すことができます。いいアイディアがあれば、翌週、あるいは早ければ数日後にも政策に昇華され、アイディアを提案してくれた方にお知らせしています。これが「Fast」の一例です。

若原 もし何か具体的な事例があればご紹介いただけますか?

オードリー 台湾では今回のコロナ禍への対応として、補助金の支給を実施しています。例えば実店舗で1万円ほどの買い物をすると、その3分の2に相当する金額が補助金として支給されるのです。当初は補助金の支給方法にATMからの現金の引き出しは含まれていませんでした。

すると、ある方が「水曜日」にここを訪れ「ATMで補助金を引き出せるようにしてはどうか?」と提案してくれたのです。私はそのアイディアに賛同し、すぐに仕組みを構築しました。

若原 2つ目の要因として挙げていただいた「Fair」についてもお聞かせください。

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オードリー 同じ補助金の例ですが、補助金を手にするためにATMを使うのを嫌がる人がいるかもしれませんよね。そこで、紙のクーポンで補助金を利用することもできるようにしました。現在は24時間いつでも、コンビニで紙のクーポンを発行する仕組みが整っています。

このお話で私が伝えたいのは、「テクノロジーは人のためにある」ということです。人々がテクノロジーに合わせることをお願いしているわけではないのです。これが2つ目のポイントである「Fair」な姿勢に関して私が意図しているところです。

そして、最後のポイントである「Fun」とは、すべてを楽しく提供するということです。政府からのコミュニケーションなどを目にしたとき、喜びや楽しさを感じてもらえるようにしています。

先ほどお伝えした補助金のウェブサイトをご覧ください。「お祭り感」がありますよね。政府のウェブサイトだからといって堅苦しいものではありません。楽しさを感じられるからこそ、このウェブサイトを見た人々は拡散したくなるのです。

さらにこれらはすべてオープンデータにしてGitHubのリポジトリとして公開されています。だれでも自分が好きなように加工して「政府はこんなことを意図しているんだ」とさらにわかりやすく他の人に伝えることも可能です。もちろん、ソーシャルメディアにアップしても構いません。政府が何かしてくれるのを待つだけではなく、政府の情報を元に自分たちで加工して発信したくなる後押しを「Fun」という観点で行っているのです。私たちのサービス提供をきっかけに多くの方が発信してくれれば、社会全体のクリエイティビティがより高まり、より楽しくなりますよね。

広がりを見せる「シビックテック」とは?

若原 関さんが運営されているコード・フォー・ジャパンについてご紹介いただけますか?

 私は東日本大震災をきっかけに「シビックテック」と呼ばれる領域の活動をスタートしました。シビックテックとは、市民が地域の問題や社会の課題をテクノロジーによって自ら解決する取り組みのことですね。その後2013年にコード・フォー・ジャパンを一般社団法人として設立しました。

台湾では2012年の後半に「g0v (ガブゼロ)」というシビックテックのコミュニティがスタートしました。このg0vにはオードリーさんも長年参画しています。日本と台湾でほぼ同じ時期にコミュニティができあがったわけですが、私は活動にはやはり異なる点があると感じています。

例えば、日本は台湾よりも国土が広く地域が分散しているので、地域ごとの草の根の活動が活発ですね。

ただし、台湾と比較するとまだ政治的なパワーはありません。オードリーさんのような大臣を生み出せていないのは言わずもがなですが、市民が行政に意見を伝えたり、行政に参加したり、関わったりという姿勢がまだまだ強くないと感じています。これは今後頑張らなければならない点です。

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データ活用における「説明責任」と「ガバナンスの維持」

若原 「データのギブ&テイク」に関する意見を聞かせてください。「データ活用」において、多くの人々は「このデータを活用してほしい」という意思がないままにデータを提供していると思うんです。ですから、「集めたデータをどのように活用すれば、提供者にベネフィットを返せるのか」を考えなければいけません。オードリーさんはどのような点がポイントになると思いますか?

オードリー データ活用のポイントを説明する前に、まず「労働」についてお話しましょう。

数世紀前、労働組合や協同組合が発明される前の時代を想像してみてください。資本家は単に労働者を集めるだけの存在と見られていました。当時の労働者にはナレッジマネジメントや知識労働の概念はありません。どの労働者も、他の労働者と代替可能な存在として扱われています。自分の労働価値もわからず、個々人が細分化されていたので、組織としてイノベーションについて考えることもありません。すると、労働者は「物体」のようになってしまうのです。

現代では、人々が意図的に意見を表明するとき、彼らは自身が民主主義に参加していることを理解しています。

その一方で、単に監視されているだけの状態では自分にどのような利益が返ってくるのかはわかりません。これは先ほど若原さんがおっしゃった「データを提供しているだけ」の状態や、私が例として挙げた「数世紀前の労働」における関係性です。民主主義ではなく、全体主義のような体制にあるのかもしれません。

若原 確かに近い関係性だと感じます。

オードリー 企業経営の手法として、現代ではナレッジマネジメントが浸透しています。企業内のマネジメントではなくとも組織が人々を巻き込んでいくためには、ナレッジマネジメントと同じようなアイディアが必要です。データ活用を考えている組織の場合、人々のエンゲージメントを高めて、組織との関係性を改善するには主に2つの方法があります。

まずは「説明責任」です。組織を信頼してデータを提供してくれた人に「どのようにデータが利用されるか」を説明する必要があることは言うまでもありません。さらに、データ提供者からのすべての個別の質問に1つずつ回答することも大切にしなければならないのです。

若原 もう1つの方法についてもお聞かせください。

オードリー 2つ目は「ガバナンスを維持する」ことです。つまり、データを提供する人が「データの根本的な価値」を自身でコントロールできるようにしなければならないということですね。

例えば、基本的にはデータを提供することに同意している人でも「こんな目的では私のデータを使われたくない」と感じることがあると思います。その人がオプトイン、すなわちデータの送信を許可する動作はとても簡単だったはずです。それと同じように「データを送りたくない」と感じた場合には簡単にオプトアウト、つまりデータの提供を拒否できるようにすべきでしょう。オプトインとオプトアウトの選択肢を提供し、データ提供者が自分で簡単に選択できることが大切なのです。

先ほど考えた「労働」に当てはめてみると、データ活用の進む道が直感的に理解できると思います。現在では企業のことを単に労働者を集約しただけとは考えませんよね。データも同じようにシフトすると思います。データを提供した人の意志でデータを使ったり、データを使ったすばらしいコラボレーションもできたりするようになるでしょう。

「健康管理アプリ」と「マスクの譲渡」

若原 「データに関する人々のマインドセット」をシフトさせるために取り組んでいること、意識していることはありますか?

オードリー 「責任」と「政治参加」という2つのポイントがあります。

まず、「責任」について事例をご紹介します。台湾では「健保快易通(以下、NHIアプリ)」というアプリがあります。台湾の人口は約2360万人ですが、400〜500万人が「NHIアプリ」内の「マイヘルスバンク」という機能を利用しています。

この「マイヘルスバンク」機能では、例えばX線やCTスキャンを実施した画像をダウンロードできたり、以前に医師が診断した結果を確認することができたりするのです。さらに会社や組合での健康診断の結果も記録できますし、スマート家電がモニタリングしたデータを集約することも可能です。

これらのデータを確認することができるのは本人に限られます。
また、診療結果の入力に間違いがあると気付いたときは、自分で情報を変更することもできます。

若原 情報管理の透明性を高めるとともに、自分の健康に責任を持つという意義もあるのですね。

 日本でも政府の一部の方は「NHIアプリ」と同じような構想を持っています。ただ、医師の組合がデータを提供することを拒むのではないかという懸念があるんです。台湾ではどのように医師を説得したのでしょうか?

オードリー 「全民健康保険」という台湾での保険制度が大きいと思います。この保険制度は台湾国民だけではなく、居住者も対象としているのですが加入率は99.99%以上を記録しています。これは日本よりも高い数字です。

また、この全民健康保険は、政府の機関を単一の保険者としています。日本のように様々な協会や組合が保険者ではないので、動きやすい側面はあったかもしれませんね。

若原 もう1つのポイントである「政治参加」についてお聞かせください。

オードリー こちらはマスクの事例をご紹介します。台湾でも新型コロナウイルス対策として国民にマスクを配布しています。

ただ「マスクが不要だ」という人は、自分のマスクを他の人に譲渡することができるのです。日本を含めた海外でマスクが不足しているのであれば、国外へマスクを送って支援するわけですね。

マスクの譲渡は「NHIアプリ」から行うことが可能です。実際に約70万人の方から500万枚を超えるマスクが譲渡されました。そして、マスクを提供した人は、自分の名前を公表してこの取り組みに参加していることを表明することができるようになっています。もちろん、匿名で譲渡することも可能です。

 日本においては「個人情報はとにかく守るべき」という風潮が強くあります。「個人情報が漏れると大変なことになる」とか「企業にデータを渡すと悪用されるかもしれない」という不安感が先行している状況です。

今回の新型コロナウイルス対策では、陽性者との接触を確認する「COCOA」というアプリが厚生労働省からリリースされました。このアプリを適切に利用するためには自分の情報を提供することが必要です。「個人のプライバシー」と「公衆衛生上の利益」がバッティングしたわけです。

今後は日本でも、いかに国民に対して丁寧に透明性高く説明し、どのようにベネフィットを提供するかを考えなければいけません。この「考える」ところから参加してもらえるようにするのが重要かなと思います。

「データが1ヶ所に集まれば活用しやすい」ってホント?

若原 データの所有権について伺います。データ活用する側面に目を向ければ、データが1ヶ所に集約されていくほどできることは増えていきますよね。ただ、その反面データが集中すれば権限も集中し、データの独善的な利用、乱用・悪用の懸念も出てきます。この問題をどのように考えればいいと思いますか?

オードリー 先ほどと同じように労働を例に考えてみましょう。通信技術が発達する前は、労働者が1ヶ所に集まって働いた方が効率的でした。異論がある人はいないでしょう。

ただし、スピードと量だけを求めていれば必ず限界を迎えます。1つの部屋に何千人も集められませんし、1日に20時間働かせることもできません。現代では大きな1つの部屋に多くの労働者を集めようとは考えられなくなりました。

そして、労働に関するマインドが変化した結果、サスティナブルな労働環境を求めることは当然になりました。個人と組織の両方が持続できる方法で働けるようになっていますよね。

ソーシャルイノベーションが起こったのはこのような背景があるからです。クラウドファンディングやクラウドソーシングは広く浸透し、ドキュメント単位でも共同で作業ができるようになりました。このような最新のソーシャルイノベーションにより、私たちは既に「データを排他的に支配して所有するモデル」よりも優れた考え方ができるようになっているのです。

その例が、先ほども少しお話した新型コロナウイルス対策としてのマスクの配布です。現在台湾では薬局で保険証を提示すると、大人は2週間に9枚、子供は10枚のマスクを購入することができます。各薬局での在庫は、政府からの情報だけではなく様々な方が開発した100以上のアプリやサービスでチェックすることが可能です。9枚マスクを購入すれば、数分後にはその薬局の在庫が9枚減ったことをアプリから確認できるのです。

これはブロックチェーンの分散型台帳のようなものですね。中央集権型の単一の情報ソースなしに、お互いが責任を負うことが可能になっているわけです。これはデータが1ヶ所に集約されていない一例にすぎません。私たちは、政府や1つの企業が発行したわけではない「分散型ID」、データを1箇所に集めることなくそれぞれのスマートフォン端末で学習する「フェデレーテッドラーニング」、暗号化したまま計算ができる「準同型暗号」など多くの新しい革新を利用しているのです。

「傲慢なテクノロジー」を防ぐために必要なもの

若原 先ほどオードリーさんは「Fair(公平さ)」の文脈で「テクノロジーは人のためにある。人々がテクノロジーに合わせることをお願いしているわけではない」とおっしゃっていました。データやテクノロジーがあらゆる人に正しく使われるために「謙虚さ」や「公平さ」をどう実現すべきだと思いますか?

オードリー その問題の多くは、私たちの伝えるストーリーや、私たちの言葉づかいに起因します。「IT」と「デジタルのビジョン」を混同してはいけないのです。それを忘れることのないように、私は自分の仕事に次のようなテーゼを掲げています。

「『IoT』は『人間のためのインターネット』だと考える。
『バーチャルリアリティ』は『リアリティの共有』と考える。
『機械学習』は『機械と人間のコラボレーション学習』と考える。

『ユーザー体験(UX)』は『人間の体験』と考える。
そして、『シンギュラリティ』と聞いても、私たちの『多様性』を忘れないようにする」

確かに「AIが私の仕事を奪う」という心配する人もいるでしょう。でも、「AI」を「Artificial Intelligence(人工的な知能)」の代わりに「Assistive Intelligence(アシストしてくれる知能)」と呼べば、その心配も消えるのではないでしょうか。

例えば、人間のアシスタントや秘書をつけている方がいます。その人はアシスタントを信頼し、自分の思惑を汲み取って何か行動してくれることを期待しますよね。もし、アシスタントが自分の価値基準と異なる行動をとったのであれば、アシスタントに説明するように求めるでしょう。それが説明責任で、説明できなければクビにするわけです。

つまり、この質問のポイントは「データやテクノロジーが謙虚であるべきか」という話ではありません。それは単なる結果です。私たち人間が中心となって「人の尊厳」を主張する限り、謙虚さは続いていくでしょう。

 コード・フォー・ジャパンでも、当初はこの課題にぶつかっていましたね。テクノロジーが得意な人間が集まるので、なんでも技術で解決しようとしていたのです。

しかし、その姿勢で現場の方々と活動しようしても失敗が続いたんです。それも当然の話で、行政の職員の方々は「解決したい課題」は持っていても「オープンデータを活用したい」とは考えていないからです。これでは信頼関係は築けませんし、結果的には「現場で誰も使わないテクノロジー」が生まれてしまいます。

4年ほど前からは、行政がなんのために存在し、何を解決したいのか、誰を助けたいのかを理解して、テクノロジーを考えるようにシフトしました。一緒に活動しながら、使うべきところで正しいテクノロジーを選択するという方法にしてからは、様々な自治体や市民の方々と活動できるようになっています。

「私にとって民主主義はテクノロジーでした」

若原 オードリーさんにお伺いします。ある方の発言で、「生まれたときから慣れ親しんでいるものはテクノロジーとは認識しない」という言葉が私はとても心に残っています。

大人になってから出会った新しい技術には、やはり先入観を持ってしまうという実感があるんです。新しいテクノロジーと対面した際に等身大で向き合うためにどのようにすべきでしょうか?

オードリー 私が生まれた1981年当時、台湾はまだ戒厳令下にありました。台湾で初めて大統領選挙が実施されたのは1996年、私が15歳の頃でした。つまり、若原さんが紹介してくれたお話の表現でいえば、私にとって民主主義は「テクノロジー」なのです。

私は民主主義社会で生まれたわけではありません。それでも、私たちは民主主義という「テクノロジー」を活用して、お互いが助け合う社会を構築することができます。そして、それを実現する考え方の中心が「Fast(速さ)」「Fair(公平さ)」「Fun(楽しさ)」なのです。

この考え方を、「テクノロジー」のようだと感じる人々もいるかもしれません。新しい考え方に慣れ親しんでいないので、不確実なやり方だと感じたり、うまくいくか疑ったり、怖がったりするわけです。

でも、そのような「ネガティブな感情」を覆して「共創するエネルギー」に転換させるのが「Fast」「Fair」「Fun」の3つだと私は感じているのです。

みなさんも「何か怖いと感じるもの」や「奇妙に感じるもの」に出会ったら、すぐに拒むのではなく、それらの一部だけにでも興味が持てないか考えてみてください。もし、好奇心が刺激されて、その対象にもっと興味を持ちたいと感じたら、コミュニティが大切になってきます。興味を持った分野がテクノロジーであれば、コード・フォー・ジャパンのようなコミュニティを探してみましょう。この好奇心を持つことが「新しいものへの憤りや恐れ」に対するワクチンとなるのです。

一緒に食事をしたり、好きな音楽を共有したりするコミュニティは想像しやすいと思います。誰でも何かしらのコミュニティに属していることでしょう。テクノロジーのコミュニティも気楽に考えてみてください。テクノロジーは自分たちを抑えつける道具ではありません。楽器のように仲間とともに練習し、演奏を楽しめるものなのです。これが私からのアドバイスです。

若原 最後に、このパンデミックを経験しながらも、テクノロジーを通じて世の中をポジティブに変革しようと挑戦している読者の方々へメッセージをお願いします。

オードリー 詩人でシンガーのレナード・コーエンさんの「アンセム」という詩を引用して、メッセージとします。

「日が昇ると、今日もまた新たな1日を始めよ、と鳥が唄い、
 過去のことをくよくよと考えても仕方がない
 起きてもいないことを心配しても仕方がない、と唄う
 戦争はまた繰り返され
 聖なる鳩は、また捕らえられる
 買われて、売られて、また買われる、
 彼女が自由になることはないのだ
 鳴らせる鐘を鳴らそう
 完璧なモノがある、とは思うな
 すべてのものには裂け目がある
 裂け目があるからこそ、そこから光が差し込むのだ」

若原 ありがとうございます。とても心が動き感激しました。

オードリー こちらこそありがとうございました。是非、今後も連絡を取り続けましょう!

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<プロフィール>

オードリー・タン

台湾行政院 デジタル担当政務委員。1981年生まれ。14歳で中学校を自主退学し、独学でソフトウェア開発の研究を開始。19歳でシリコンバレーに渡り、起業。Apple社の顧問などを経て、33歳でビジネス界から引退。2016年、35歳で入閣。台湾のシビックテックコミュニティ「g0v」の中心人物でもある。

関 治之(せき はるゆき) 

一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事。ヤフーなどでの勤務と並行し、2009年に合同会社Georepublic Japanを設立。2013年、コード・フォー・ジャパン設立。2014年、株式会社 HackCamp 設立。

トレジャーデータ株式会社

2011年に日本人がシリコンバレーにて設立。組織内に散在しているあらゆるデータを収集・統合・分析できるデータ基盤「Treasure Data CDP」を提供しています。デジタルマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメション)の根幹をなすデータプラットフォームとして、すでに国内外400社以上の各業界のリーディングカンパニーに導入いただいています。
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