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もはや企業課題の「再生エネルギー利用」、デジタルで解決するには【前編】

福本 勲の『プラットフォーム・エコシステム』見聞録(07)

インダストリー4.0の取り組みが進むドイツでは、再生可能エネルギー活用の動きも加速しています。ドイツでは、発電量に占める再生可能エネルギーの比率が、2019年に石炭などの化石燃料の比率を逆転しました。英国でも、原子力を含めた二酸化炭素(CO2)排出ゼロの電力源が初めて化石燃料を上回り、米国でも、州政府を中心に再生可能エネルギー導入が進んでいます。そして、このような再生エネルギーの活用の取り組みを加速する鍵となるのがデジタル技術です。それに触れる前に、まず前編では「脱炭素」に向かう欧米の動向と、日本の現状について解説します。

世界のエネルギー利用は大きな転換期に

ドイツの研究機関であるFraunhofer Institute for Solar Energy Systems(ISE)によると、ドイツの発電量に占める再生可能エネルギーの比率は2018年に初めて石炭などの化石燃料の比率(約40%)を超え、2019年には46.0%に達しました。

ドイツは2030年までに総発電量の3分の2を再生可能エネルギーでまかなうことを目指しており、また、2022年末までに原子力発電を廃止すると表明しています。再生可能エネルギーのうち2019年の時点で比率が最も高いのは風力発電(24.6%)で、太陽光発電(9.0%)とバイオマス発電(8.6)がそれに続きます。

Fraunhofer ISEによる2019年のドイツの発電状況のまとめFraunhofer ISEによる2019年のドイツの発電状況のまとめ(出典

Fraunhofer ISEは、再生可能エネルギーの割合が化石燃料を逆転した理由として、低価格な再生可能エネルギーの普及と、欧州排出量取引制度(EU-ETS)の排出枠価格の上昇を挙げており、これにより、CO2排出の多い発電では利益が出なくなってきていると指摘しています。

英国のナショナル・グリッド(National Grid)によると、同国内では2019年にCO2排出ゼロの発電量シェアが48.5%となり、化石燃料の43.0%を初めて上回ったとしています。

欧州連合(EU)は2019年12月、EU域内のCO2の純排出量(排出量-吸収量)を2050年までにゼロにするという目標に合意しています。自動車などのEV化がその柱の1つであり、動力となる電気を生み出す手段に注目が集まっています。

一方、米国のエネルギー市場は、国内に豊富に存在する原油・天然ガスを中心とする化石燃料主導で動いています。トランプ政権の環境・エネルギー政策の基本も、化石燃料重視です。しかし連邦の政策とは裏腹に、州政府を中心に再生可能エネルギーの導入が進んでおり、近い将来、米国でも化石燃料需要がピークアウトしていくのではとの見方も出てきています。例えば、カリフォルニア州は全米最大級のシェール資源を埋蔵しながら、その開発には否定的で、再生可能エネルギーに依存する社会を目指しています。

2017年6月にトランプ大統領がパリ協定からの離脱を表明した同日、これに反発するニューヨーク州、カリフォルニア州、ワシントン州の各知事は「米国気候同盟(United States Climate Alliance)」の創設を発表しました。この同盟は、法的拘束力のある協定を定めるわけではありませんが、温室効果ガスの排出量を2005年比で26~28%削減するというオバマ前政権が掲げた目標を維持・達成しようと、気候変動に対して同じ考えを持つ州知事たちが集まって結成したものです。3州の知事の呼びかけで、2020年2月時点で25州が加入しています。

後れを取る日本の再生可能エネルギー利用

そのような欧米の動きに対して、日本の再生可能エネルギーの利用率は大きく後れを取っています。日本では再生可能エネルギーの調達コストが高く、どのようにその実効性を高めるかが課題となっています。

経済産業省によると、日本における太陽光発電のコストは2017年に1kWh当たり17.7円で、陸上風力発電は15.8円です。一方で世界の平均コストは太陽光発電が9.1円、陸上風力発電が7.4円であり、日本政府が2030年の目標としている水準を既に達成しています。

再生可能エネルギーの発電コスト 現状と見通し(出典:「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」2018年10月 資源エネルギー庁)再生可能エネルギーの発電コスト 現状と見通し(出典:「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」2018年10月 資源エネルギー庁)

再生可能エネルギーの導入が企業間の取引の前提条件に

国際的な企業連合「RE100」は、事業活動によって生じる環境負荷を低減させるために設立された環境イニシアチブの1つです。事業運営に必要なエネルギーの100%を再生可能エネルギーでまかなうことを目標としており、「Renewable Energy 100%」の頭文字から「RE100」と名付けられました。

現在、RE100には世界中から約220社が加盟しており、加盟企業の売上高合計は5.4兆ドル(約590兆円)に達しています。このように規模の大きな企業が多く加盟している背景には、取引条件として環境対応が重視される傾向が強くなっていることがあります。環境への取り組みは企業の競争力に影響を与え始めており、グローバルでの商取引では再生可能エネルギーの導入が前提条件になりつつあります。

RE100に加盟する日本企業は2020年2月時点で31社に達しています。加盟企業であるリコーやパナソニックでは、工場での使用エネルギーの100%を再生可能エネルギーにする計画が進んでいますが、こういった動きは有力企業の一部にとどまっています。一方で、米アップルは世界中のサプライヤーに再生可能エネルギーの導入を推奨し、既に40社以上がアップル向け生産ラインで再生可能エネルギー100%を実現しています。日本でも日本電産など数社が対応しています。

このような企業の取り組みの原動力となっているのがESG(環境・社会・企業統治)投資です。米ゴールドマン・サックスは2019年12月に、石炭火力発電や石炭採掘事業への融資を削減することを表明しました。こうした投資会社の環境方針により、環境対策を強化する企業に多くの投資資金が流れ込むことになります。

RE100に加盟するソニーなどの国内企業とアップルを含む20社は、2019年6月に東京都内で関連されたシンポジウムにおいて、日本の電力に占める再生可能エネルギーの比率を2030年までに50%に引き上げるよう求める提言を発表しました。

「脱炭素」の潮流の中で日本はどうすべきか

このような「脱炭素」の潮流の中で、日本政府は2030年に再生可能エネルギーの比率を22~24%に引き上げる目標を掲げ、企業への支援を強化する方針を打ち出しています。しかしながら、前述のように日本では再生可能エネルギーの調達コストが高いために普及が遅れており、このコストを急激に下げるのは難しいと思われます。

では、日本や日本企業はどのようにこの環境課題に取り組むべきなのでしょうか。

後編では、日本の再生可能エネルギーの利用拡大に向けた課題と、その解決策となるデジタル技術を活用した取り組みの事例について紹介していきます。

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福本 勲(ふくもと いさお)

株式会社 東芝
デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト

東芝デジタルソリューションズ株式会社
ICTマーケティング推進部 担当部長

中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)


1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長を務める。2015年より一般社団法人 インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)正会員となり、教育普及委員会副委員長、エバンジェリストなどを務める。その他、複数の団体で委員などを務めている。主な著書に「デジタル・プラットフォーム解体新書」(共著)、「デジタルファースト・ソサエティ」(共著)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。

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