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福本 勲の「プラットフォーム・エコシステム」見聞録(後編)

胎動する「プラットフォーム・エコシステム」、自動車業界では国際標準化の動き

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旧来のサプライチェーンやエンジニアリングチェーンに大きな変化をもたらし始めている「プラットフォーム・エコシステム」。その動きを追う連載の第2回です。既存ビジネスの前提条件を根本から書き換えてしまう。そんな変化の事例を紹介します。
 

前編では、自動運転に不可欠な地図データ基盤の構築における標準化の動きについて取り上げ、先行する地図作成ベンダーの動きを紹介しました。この後編では引き続き、欧州における産業デジタル化の動きをお伝えし、続けて、完全自動運転化と切っても切り離せないサービス変革、サプライチェーンおよびエンジニアリングチェーンの変革の可能性について述べていきます。

欧州における産業デジタル化の動き

欧州では、ドイツのインダストリー4.0から始まった産業のデジタル化の動きが拡大しつつあります。

欧州内で進められているデジタル政策・先進技術イニシアティブ
(出典:平成28年度 内外一体の経済成長戦略構築に関わる国際経済調査事業(日EU間のデジタル分野の規制協力推進に関する実践的調査)報告書 平成29年3月 日本機械輸出組合)

 

GDPR(General Data Protection Regulation)などのデータ保護に関するEUとしての規制や、IDS(International Data Space)などのデータ流通に関する標準化の動き、IEC(International Electrotechnical Commission) /ISO(International Organization for Standardization)などの標準規格化の動きもあり、これらは欧州の第4次産業革命を支えるための戦術と考えてよいでしょう。

自動車については、AUTOSAR(AUTomotive Open System ARchitecture)があります。AUTOSAR は2003年にビー・エム・ダブリュー(BMW)、ボッシュ(BOSCH)、コンチネンタル(Continental)、ダイムラー・クライスラー(Daimler Chrysler、現在はDaimler)、シーメンスの自動車電子部品部門VDO(Siemens VDO、現在はContinentalが買収)、‎フォルクスワーゲン(Volkswagen:VW)が発足した自動車業界のグローバル開発パートナーシップであり、約200の会員企業および団体から構成されています。目的は、ECU(車載電子制御ユニット)用の共通標準ソフトウェア・アーキテクチャーを策定・確立することです。

BMW、Daimler、VWグループのアウディ(Audi)は、2015年8月に、当時ノキア(Nokia)子会社であった地図情報サービス大手のオランダHEREを共同で買収しており、自動運転用に地図開発に取り組んでいます。

こういった欧州の動きの目的のひとつは、米国GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が一方的にB2C(Business-to-Consumer)マーケットの経済価値を吸い上げていることへの対抗策であり、そのためにEU全体でデジタル単一市場を作ることにあると思われます。EUはB2Cでは米国の後じんを拝した形になっていますが、強みを持つB2B(Business-to-Business)、インダストリー領域では米GAFAに負けないという強い意志を持ち、データ、CPS、コネクティビティなどに焦点をあて、製品のデジタル化、業務プロセスのデジタルトランスフォーメーション、新ビジネスモデルの創造などを進めているように見えます。

その観点では、今回の対Googleを狙ったとも言える日米連携も、この欧州の動きに類似しています。

完全自動運転化がもたらす変革

完全自動運転化と製造業のコトづくり(サービス化)の進展は切っても切り離せません。製造業がコトづくりに向かうとき、そこには第3次産業的要素が含まれることになります。物流、通信、エネルギー、金融などの要素も、その動きをバックヤードで支える要素として不可欠です。また、サプライチェーンにおいて従来、調達・販売機能、物流機能、金融・危険負担機能、情報提供機能などの機能を果たしてきた流通(卸・小売など)の存在意義や役割にも大きな影響を与えるでしょう。

この典型例として注目されるのが、自動車業界での自動運転、EV(Electric Vehicle)化、シェアリングエコノミーの発展です。完全自動運転の時代になると、車の中での過ごし方が変わります。例えば、自動運転中の車内で宿泊や飲食、カラオケなどを行うサービス提供なども考えられますが、そうしたサービスを車と一緒に提供するMaaS(Mobility as a Service)企業は製造業と言えるのでしょうか? また、自動車メーカーの競合は現在の自動車メーカーだけなのでしょうか? 製造業が自社のビジネスを既存ビジネスのサイロに閉じこめると、いとも簡単に他の業界からアタックされてしまう時代が来ていると言えるでしょう。

例えば、ファーウェイ(Huawei)とGroupe PSAはコネクテッドカーに関する提携を2017年11月に発表し、コネクテッドカー「DS 7 CROSSBACK」をHannover Messe 2018(2018年4月)で披露していました。

この車両はファーウェイのOcean Connect IoTプラットフォームとファーウェイがサポートするクラウドサービスに対応しており、運転者や同乗者などのエンドユーザーに新しいコネクテッドサービスを提供していこうとしていました。エンドユーザーはコネクテッドナビゲーション、自然言語の音声認識、車内ダッシュボードスクリーン上のコネクテッドサービス・ポータルなどの新サービスを利用でき、車両の整備状況、走行歴、運転スタイルもエンドユーザーのスマートフォンから参照できることをアピールしていました。

ハノーバーメッセ2018におけるHuaweiのコネクテッドカー展示(筆者撮影)

 

シェアリングエコノミーにもたらされる変化

車の完全自動運転化は、車を「単なる移動手段の1つ」に変化させるとも言えます。また、移動時の顧客体験の選択が重要になると考えられ、この選択肢の幅を広げる手段であるシェアリングエコノミーがさらに発展するでしょう。

ウーバー(UBER)などのシェアリングエコノミーサービスは、個々のクルマの違いやドライバーの違い、その関係性などの複雑な要素を抽象化、シンプル化した情報をクラウドサービスとして提供し、スマホを通して活用できるようにしたことで新しい価値を生み出しています。

アプリはユーザーの利便性を高める手段であり、迎車の現在位置がほぼリアルタイムで分かり、「あと何分で到着するか」という到着予測、そして過去の利用実績履歴や領収書の発行サービスでも利用ルートが表示されるなど、利用者にとって非常に便利なサービスに進化しています。

ドライバーとユーザーの双方のスマホから、位置データや時刻、現在地、目的地などの情報を収集し、クラウド上で地図情報や交通情報、ドライバーの評価情報などと組み合わせることによって、ユーザーの「今居る場所から目的の場所に移動したい」というニーズを満たすことに成功しています。一方、完全自動運転が実現されれば、ドライバーが不在となる可能性もあり、ドライバーの評価は意味を成さなくなっていくでしょう。移動の間に何をして過ごせるか。それがサービスの重要な選択要素となる可能性もあります。

技術ドリブンによる社会変革が世界中で同時並行的に進行していく中で、我々の身近にある「移動」という手段にも、プラットフォーム・エコノミー化の影響がおよびつつあると言えるでしょう。

福本 勲(ふくもと いさお)

株式会社東芝
デジタルイノベーションテクノロジーセンター
チーフエバンジェリスト

中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)


1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長を務める。主な著書に「デジタル・プラットフォーム解体新書」(共著)、「デジタルファースト・ソサエティ」(共著)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。

(プロフィールは2023年7月現在のものです)

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