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「ミニフューチャーシティ」データドリブン社会が機能するためのヒント (ゲスト : 塩瀬隆之さん第3回)

PLAZMA TALK #5|京都大学総合博物館 准教授 塩瀬 隆之氏

Arm Treasure Dataでエバンジェリストを務める若原強が各界注目のゲストを招いて対談する「PLAZMA TALK」。今回のゲストは京都大学総合博物館 准教授であり、日本科学未来館“おや?”っこひろば総合監修、NHK Eテレ「カガクノミカタ」番組制作委員等々、多彩な活動を繰り広げられている塩瀬隆之さんです。
今回は、博物館×デジタルをテーマに塩瀬さんと考えていきます。
多岐に渡る活躍から「何をしているか悟られないこと」を目的とし、飄々とした語り口の塩瀬さん。まるで博物館の展示のように幅広い分野の話題と、実務に即した深い見識が次から次へと飛び出してきます。
キーワードは「コミュニケーション」です。本対談は3回に分けて配信いたします。

第3回目は、「ミニフューチャーシティ」データドリブン社会のお話を伺います。

第1回目のトークはこちらから:
塩瀬さん、「大学博物館」ってそもそもどんなところですか? (ゲスト: 塩瀬隆之さん第1回)

第2回目のトークはこちらから:
博物館とデジタル化、あるいは「いいとこ取り」の役割分担 (ゲスト: 塩瀬隆之さん第2回)

Topics

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Arm Treasure Dataでエバンジェリストを務める若原強が各界注目のゲストを招いて対談する「PLAZMA TALK」。今回のゲストは京都大学総合博物館 准教授であり、日本科学未来館“おや?”っこひろば総合監修、NHK Eテレ「カガクノミカタ」番組制作委員等々、多彩な活動を繰り広げられている塩瀬隆之さんです。
今回は、博物館×デジタルをテーマに塩瀬さんと考えていきます。
多岐に渡る活躍から「何をしているか悟られないこと」を目的とし、飄々とした語り口の塩瀬さん。まるで博物館の展示のように幅広い分野の話題と、実務に即した深い見識が次から次へと飛び出してきます。
キーワードは「コミュニケーション」です。本対談は3回に分けて配信いたします。
第3回目は、「ミニフューチャーシティ」データドリブン社会のお話を伺います。

第1回目のトークはこちらから:
塩瀬さん、「大学博物館」ってそもそもどんなところですか? (ゲスト: 塩瀬隆之さん第1回)

第2回目のトークはこちらから:
博物館とデジタル化、あるいは「いいとこ取り」の役割分担 (ゲスト: 塩瀬隆之さん第2回)

Topics

ミニフューチャーシティ/失敗しないことが気になっていた/ミニ・ミュンヘン/砂鉄屋さん・荷物運び屋さん・人をかき分け屋さん/仕事と仕事をつなぐ形で仕事が生まれてくる/ロボットは人の仕事を奪わない、では奪っているのは誰だ?/自分の仕事以外は奪われても構わない/ロボットとシステムは悪いわけじゃない/ICTとマイナンバー制と電子マネーとロボット店員が前提のインフラとしてのミニシティー/「ものごころが存在する前から存在していたテクノロジーは、テクノロジーと呼ばれない」/電話を掛ける仕草もない世代/「いいとこ取り」を阻害するのは、前に使っていた技術が捨てにくくなるから/全てのテクノロジーに必ずあるリスクを槍玉に挙げていないか/技術は常に中立/技術の良さをちゃんと届けるエンジニアリングがあるはずだ/「技術を悪者にしないで」/ビッグデータの意味/2〜3時間で一次・二次・三次産業に変遷/未来旅行社と爆買い、ダイナミックプライシング/街を俯瞰して、自分の居場所を見つけてほしい/歯車がないと大きいものが動かない/歯車を回すモチベーション/データが違う視点をもたらす/売上といいねの関係性/売れてくると値段を下げる傾向?/いいねの方向性を増やす/全員がかっこよくなくていい/デジタルになるとアナログの良さが消えてしまう?/いろいろな人生の歩み方があるということを伝えられる/人に評価をネガティブにつけられるというのが習慣化してしまっている/自分で作るワガママ通信簿/人に決めてもらう習慣が多すぎる/IoTがうまくいかない理由/データをどう使うかを習慣化する

Takayuki Shiose: The Kyoto University Museum/Associate Professor
Tsuyoshi Wakahara: Evangelist, Arm Treasure Data
Recording: 2020/04/14

※収録はオンラインにて行っています。一部背景に環境音が入っている箇所あります。ご了承ください。

ミニフューチャーシティ

若原 塩瀬さん、今まで博物館とか美術館の展示についてお話を伺ってきたわけなんですが、ここからちょっと話題を変えて、私も以前お伺いした、塩瀬さんの面白い取り組み、「ミニフューチャーシティ」に関してお話を伺えたらなと思います。まず、そもそもこの「ミニフューチャーシティ」なるものがどんな取り組みなのかを簡単にご説明いただけますでしょうか?

塩瀬 ありがとうございます。子どもたちが、将来自分がどんな仕事に就くんだろうというのを体験したいというアミューズメント的なキャリア体験として、学校の中でも、商店街で5日間お仕事するといったことをやっている自治体もありますし、それが商業施設になっているところもあるんですけど、そういうのは大人が側にいてくれるので、子どもたちは疑似体験としてお仕事ができるんですが、あまり失敗しないというのがずっと気になっていたんです。上手に大人が支えてくれるので。

失敗しないことが気になっていた/ミニ・ミュンヘン

塩瀬 仕事って失敗しながら学ぶことってたくさんあるじゃないですか。そう思ったとき、ドイツのミュンヘンでスタートした「ミニミュンヘン」というのがあるんです。そこには子どもたちだけでミュンヘンの街を作ろうというプロジェクトがありまして。それこそ銀行 、市役所、ハローワークとか、街を構成するいろんな仕事のほとんどを子どもたちだけでやるという、子どもたちの街というのがあるんですね。

砂鉄屋さん・荷物運び屋さん・人をかき分け屋さん

塩瀬 それが世界中に広がっていて、砂鉄がすごい好きな子が砂鉄屋さんを営業しますと。店先に砂鉄を並べるんだけど、誰も買ってくれない。そうすると、廃業するわけですよね。求められないと仕事がないので。そのあとに、そこら辺に余っている台車があったので、「誰かの荷物運びますよ」と言っていたら、「これも運んでよ」と頼まれる。荷物運び屋さんですね。人の荷物を運ぶっていうことは仕事になるんだと子どもがわかったあと、人混みが移動しにくくなったので、もう1人の子が、「通ります」と声をかける。人かき分け屋さんというのが出てきて、その人にお駄賃を払いながら一緒に荷物を運ぶみたいな。

仕事と仕事をつなぐ形で仕事が生まれてくる

塩瀬 仕事って、人の仕事と仕事の間をつなぐ形で新たに生まれてくるので、パッケージされてしまうとその仕事だけ孤立するんですけど、そういう体験と違って、人と人のつながりの中にもう1つが仕事が要るんだというのが、「ミニミュンヘン」的な仕事の体験だなと思っていて。それがすごくいい学びだなと思っていたので、世界中に広がっているというのはすごく面白いことだと思って注目していたんです。
 1つだけ気になっていたのが、昔懐かしい商店街になりがちなんです。本屋さんとかパン屋さんとか。それはなぜかというと、子どもが目にできる職業の種類がそれしかないんです。現実世界はもっとBtoBの仕事や、もう少しデジタルの入った仕事があるはずなのに、あまりそういうのは子どもの遊び場に現れてなくて。

若原 インプットが限られちゃうということですね。

塩瀬 そうなんですよね。インプットが結構アナログだなと思う。電子機器は、大人がよくわからないので、スマホを渡さないタブレットを渡さないとかっていって、親が障壁になって子どもに届かない、というのが結構あります。

ロボットは人の仕事を奪わない、では奪っているのは誰だ?

塩瀬 その中で、ここ数年ICTで合理化されてロボットに仕事が奪われるという論調がある中で、20年ぐらい前から人の仕事とロボットの関係を見てきた人間からすると、ロボットは人の仕事は奪わないと思っています。奪っているのは、「ロボットの導入を決めた人」。駅で切符をチェックしていた人を自動改札に変えたのは、人間が決めたことだし、自動改札の中の機械も、スマートカードになってから中の機械も要らなくなったから。それをメンテナンスする人の仕事がなくなったのも、人が決めたこと。しかも韓国のKTXとかになると、インターネットで予約して行くから改札自体もなかったりするので、改札を作る会社の仕事も奪われているかもしれないけど、全部ロボットじゃなくて人間がやっているんですよね。

自分の仕事以外は奪われても構わない

塩瀬 でも、急に東京駅とか京都駅、大阪駅、名古屋駅の券売を「雇用確保のためにもう一度”もぎり”の人に交換します」というと、みんな多分怒りますよね。「通勤どうするんだ?」とか言いますよね。みんな自分の仕事以外は、奪われても構わないと思っているんですよね。自分の仕事だけ奪われちゃ嫌だと、基本わがままからスタートするのかな。

ロボットとシステムは悪いわけじゃない
ICTとマイナンバー制と電子マネーとロボット店員が前提のインフラとしてのミニシティー

塩瀬 だから、ロボットやシステムが仕事を奪っているのではなくて、人が決めているわけだから、ロボットとシステムのせいにするのはずるいなって。だからロボットとかシステムが悪いわけじゃないよというのを子どもたちに知ってほしくて、その小さな街の中に、最初からICT、マイナンバー制、電子マネー、ロボット店員を入れたミニシティ的なものができたらいいな、と思って「ミニフューチャーシティ」を作ろうと思ったんですよね。

若原 インフラ的にそういうものは最初からあるものとして、前提として、子どもにその中で活動させるということなんですね。

塩瀬 そうです。

「ものごころが存在する前から存在していたテクノロジーは、テクノロジーと呼ばれない」

塩瀬 あとから与えるから、何か変わった技術だと思うんですけど、僕が思うにも、物心つく前から存在していたものはテクノロジーと呼ばないんじゃないかなと思って。普段自分が使っていたものが使えなくなって、新しいものが加わるとテクノロジーと呼ぶんです。FAXが登場したとか、電話、ポケベル、スマホ、とか、変わることを体験した人からすると、慣れるまでに時間がかかるので、「こんな新しいもの、よく使い方わからない」となるけど、最初からタブレットがあると、2歳とか3歳でも写真をめくるわけですよね。だから、つい最近だと、最初にパソコンの画面に指を触れる世代を、触れたら怒られるんじゃないかと思っている世代とか、電話をかける仕草をするときに、指で押そうとするかダイヤルを回そうとするかタッチでとかっていう。

電話を掛ける仕草もない世代

塩瀬 そういうのは古いですよね、と言っていたら、最近だと音声にSiriに「電話をかけて」と言うので、電話をかけるポーズはしゃべるポーズなんですね。

若原 仕草がないという。

塩瀬 仕草がないというときに、そのぐらいの世代の中では、新しいものを吸収したわけではなく、物心ついたときからそれをやっているわけですよね。

若原 新しい技術が出てきたとき、その「目的と手段を混同するな」という話がよくありますけど、逆に言うと、自分にとって目新しい要素だからこそ、それが目的となってしまうというところもあるのかもしれないですね。

「いいとこ取り」を阻害するのは、前に使っていた技術が捨てにくくなるから

塩瀬 そうなんですよね。だから最初から使ってしまえば、さっき話題にも出ていたいいとこ取りができるんではないかなと思って。だから、いいとこ取りができないのって、前に自分が使っていた慣れであるとか、よかった部分が捨てにくくなるから、過大評価してしまうわけです。今までの自分の体験や経験に対して。だから、新しいもののいいとところに目をつぶって、悪いところを採り上げる。だから、アナログに馴染んでいると、「デジタルって怖いよ」「デジタルってひどいよ」と新しく登場する悪い部分、影の部分を見つけて、自分たちのいい部分を見てしまう。

全てのテクノロジーに必ずあるリスクを槍玉に挙げていないか

塩瀬 だから、今のこのオンライン化でも、今この話自体をZoomでしていますけど、多分全てのテクノロジーに必ずリスクは存在するんだけど、「Zoom爆弾」とかZoomのセキュリティの話をやり玉に挙げて、使わない理由にしているだけのような気がしていて。

若原 コンフォートゾーンを出たくない理由を探している、みたいな感じはありますよね。

技術は常に中立
技術の良さをちゃんと届けるエンジニアリングがあるはずだ
「技術を悪者にしないで」

塩瀬 僕が、技術をずっと見てきて思うのは、技術は全てにおいて中立なんですよね。技術を使う人のリテラシーだったり倫理観が左右しているだけで、技術そのものは常に中立なんです。でも、技術のせいにしてしまうのは、わからないものや、知らないものに対する不安が増長したりするので、その技術の良さをちゃんと届けるというエンジニアリングがあってもいいかなというのが、僕が工学部の頃から思っていることです。作る人間が考えていないとか、政治的な理由でできないというのもあるんだろうけど、技術を悪者にしないでというのが、僕の大学博物館の技術畑の人間としての立ち位置かなと思っていて。だから、子どもたちに使ってもらって、「これ要らないな」と思ったら、と捨ててもらえばいいし、「面白いな」と思ったら、使ってもらえたらいい。そういう先入観ができる前に触ってもらえたら、というのが「ミニフューチャーシティ」のコンセプトで。最初からロボット店員を置いておくと、子どもたちは「ロボットに売らせたほうが売れるな」と思ったらロボットを使うし。最初のほうにやっていた頃は、「ロボットを連れ回して、一緒に写真を撮る」という権利を売っている子たちもいました。あとはロボットのコントローラもついていたので、操縦権を売ったりとか、結構たくましく、いろいろ商売にしていたんですよね。

若原 発想豊かですね。

ビッグデータの意味

塩瀬 子どもたちはその辺、純粋で素直です。もう1つが、データの部分です。その街の中では、使うお金を「LITコイン」という、技術系のベンチャーが、アナログとデジタルをつなぐのが上手なところがあったので、そこにお願いをしてシステムを作っていただきました。ボタンを押してiPadにかざすといくら払いますというのができるんですが、そのときの購買履歴とか、データが全部蓄積されてくるので、そのデータ自身も子どもたちに使ってもらおうと思って。今のいわゆるビッグデータって、ビッグデータと言う割に個々人の生活にはあまりビッグデータの影響って感じることはなくて。提供している側には、たくさん集まるんだけど、ビッグデータの意味って、みんなそんなに知らないと思うんです。なので、それを子どもたちに知ってもらいたいな、と思いました。それをそのまま提供するようにすると、情報屋さんという仕事があって、「おたくの店にはやたら女の子ばかり買いに来てますけど、もっと商品をこうしたほうが男の子集まるんじゃないですかね?」というコンサルティングをしている子がいたり。

若原 ちなみに、場合によるのかもしれないですけど、何人くらいの子どもが集まって、どのくらいの時間行われるんですか?

2〜3時間で一次・二次・三次産業に変遷

塩瀬 大体50人から100人の間ぐらいで運営するようにしています。50人ぐらいいないとあまり街として成立しないんですよね。大体50人から100人ぐらいの運営がちょうどよくて、店で言うと10軒から13軒ぐらいです。起業と廃業を繰り返しながらですけど、平均でそれぐらいの店があります。朝の9時半集合ぐらいで、夕方の3時、4時ぐらいまで、1日かけてやります。最初の30分から1時間ぐらいはみんな「いくらで売る?」「そもそも何売る?」など、そんな相談をしているので、街として動き始めるまで少し時間はかかるんですけど、そこからスタートすると、うちは素材屋さんで素材をいろいろ提供しますとか、看板屋さんがとにかく看板を作りますよとか、情報屋さんは情報を提供してってやるんです。街が動き出してくると、自分のところで作っていたものが、だんだん売れなくなってくるんです。素材屋さんはいろんな店が立ち上がる頃に素材として提供するんだけど、みんな立ち上がってくると、あまりニーズがなくなってくるんですよね。そうすると、素材を組み合わせて紙鉄砲を作ったり、飛行機を作ったりして造形物を売ったり、二次産業に変わってくるんですよね。そのうち、だんだんそれも売れなくなってくると、それをゲームにして、ここで1回やったら何ハッピーもらえますというかたちで、一次、二次、三次産業の変換が2、3時間で起きる。

未来旅行社と爆買い、ダイナミックプライシング

塩瀬 情報屋さんも、最初は情報を提供しているですが、だんだんみんなそれを知ってくると、いちいち聞きに来なくなって。そうすると、「5分見放題10ハッピー」だったのが、だんだんそれが「5ハッピー」とか「1ハッピー」とか値段が下がって、情報の価値が下がってくるんです。ここは、子どもしか入れないようにしているので、大人が「未来旅行者」という体で入ってくるようにしているんです。見学の方がいらっしゃるときや、親御さんたちが子どもを見たいときには未来旅行者として入ってくるんです。未来旅行者に渡すお金は、ちょっと多めに入れてあるんです。そうすると、爆買いしてくれるので、みんなで未来旅行者争奪合戦が始まって。子どもたちによっては、未来旅行者に対してだけ値段が高かったりします。

若原 ダイナミックプライシングが生まれるわけですね。

塩瀬 結構、みんな現代社会でやっていることのほぼ全ては、子どもたちが数時間のうちにやっていく、自分たちで見つけていくんです。その辺がすごく面白いなと。終わったあとには、街の中で動いていたデータを全員で見てもらって振り返ってもらったりします。仮想の街なので、お昼過ぎぐらいに1回時間を止めるというのをやっているんです。マンガみたいに時間が止まるイメージで1回止めて、周りを見渡してみると、みんなが何に気づくかと聞くと、知らない店が勝手に立ち上がっていたとかしてます。

若原 全体像をつかむために時間を止めるということですか?

街を俯瞰して、自分の居場所を見つけてほしい
歯車がないと大きいものが動かない / 歯車を回すモチベーション

塩瀬 そうです。「なんか街が汚れてる」というのに気づいたら、途中からゴミ清掃員みたいなのを起業する子がいたり。僕がやってほしいことの1つは、街を俯瞰してほしいんです。自分の居場所を見つけてほしいなと。キャリア教育などで、子どもたち向けに講演をしていても、歯車みたいな人生は嫌だという、歌の文句にもなりそうなものがあるんですが、歯車がないと大きいものは動かないので、歯車は機械機構からするとすごく大事なんですよね。でも、どこの歯車かわからないまま回っているとモチベーションも下がるし、しんどいし。自分が回ることで、どれだけの人が一緒に動くのかというのを知っていると、多分回るモチベーションもできるだろうし。なんでもかんでも孤立すればいいか、というと、そんなことはないと思うので、みんなで力を合わせるための仕掛けをどう作ればいいかというのは知ってほしいですね。

若原 それは、企業活動を営む上でも結構大事なポイントかも知れないですね。自分がやっていることの絶対的な居場所を確認するとか、立ち止まることで、次何するかだけじゃなく、この先どうしたらいいかという、視点も先を見るようになるとか、いろいろ効果がありそうですね。

データが違う視点をもたらす

塩瀬 そうですね。そういう意味で、俯瞰する手法が、なんだかんだ自分の姿勢からだと没入していて見えないので、データというのが違う視点から切り取る手段になるのかなと。

若原 ちなみに、その街の活動から得られるデータって、さっきおっしゃっていた感じだと、決済データはひとまとまりで得られるっていう感じですか?

塩瀬 そうですね。決済と転職歴ですね。30分ずつ基本仕事は変わってください、とお願いしているので、花屋さんをやっていた人が本屋さんになったり、本屋さんをやっていた人がロボット屋さんになったりと。その転職歴が全部出てくるので、こういう仕事をしたらいいんじゃないかとかほかの人こういう職歴なんだというのがわかるんです。

売上といいねの関係性

塩瀬 お店の売上も出てくるんですけど、もう1つデータとして、UberやAirbnbみたいに、いいねボタンを押せるようにしているんですね。ライクドエコノミー的なもののシミュレーションにしようと思って。買い物するときに「いいね」ボタンを押して買い物をすると、その店には「いいね」が貯まるようにしています。売上が高いのもいいし、「いいね」が高いのもいい。両方が低かったら、「廃業チャンス」といって、両方低かったら流石に向き変えようよ、という。廃業というのはネガティブな意味じゃなく、今そこで求められてないので違うことをするチャンスだと思えばいいんじゃないかということです。だから、「廃業チャンス」というのを出しました。そこも、向きを変えるという意味で使ってもらおうと。そういう意味で、自分の状態を知るということと、いいねを集めていくことで街の価値を自分でどう占うかということです。日本だと、割と「ビジネス思考」と「NPO的なミッション思考」が二分してしまうのがもったいないと思っていたので、両方兼ねるような働き方を自分で見つけるというのはやってほしいなと思って。

若原 ちなみにそのデータを集計すると、売上という軸といいねを獲得した軸で言うと、相関が出るのか、どういう関係性が見えてくるんですか?

売れてくると値段を下げる傾向?

塩瀬 そういう意味で言うと、売上が立ちやすいのは、素材屋さん。銀行も結構儲けを上げていったりするんですが、それに対して、例えばお化粧屋さんみたいな女の子が作ったお店で、フェイスペインティングとかしてくれるところは売上よりは「いいね」のほうが多くて。子どもたちが結構面白いのが、売れてくると値段を下げるんですよね。より喜んでもらいたいな、と思って値段を下げるみたいです。そこだけが経済的には違うのかなと思います。売れると儲かるから上げるではなくて、より喜んでもらおうと思って値下げに走るというのがあって。それは自分の身銭を切っていないからだとは思うんですけど。

若原 その気持ちの変化は面白いですね。

いいねの方向性を増やす

塩瀬 なので、それがあると、「いいね」を稼いでいる店ほど値段を下げているところが結構あったりします。たまにそれが演劇やゲーム体験などで、売上と「いいね」を両立させている店も、たまにあったりするんです。子どもたちとして、矢印があればそこを増やそうとするので。でも二分するものが多くて、それをパレート曲線で、どちらかしか手に入らないところを両方上げていく子たちが、どれぐらい増えるかというのを見ているんです。

若原 面白いですね。そういう分析ができるのもデータで活動を可視化しているからこそ、というのもあるんですよね。

塩瀬 そうですね。横軸が値段、お金を稼ぐで、縦軸が「いいね」で。普通のトレードオフなので、どちらか上げればどちらか下がって、というふうになりがちなんですけど、そこを越えてくる、両方高い働き方をしている人たちとかいるので。

若原 いわゆる、反比例的なグラフにみんななりがちだけど、それを越えてくる、右上に行く人がポツポツいる、ということですね。

塩瀬 ただ、これは主催者側の反省でもあるんですけど、これを越えてきて、右上に行く、両方稼いでいくというのが面白い働き方という決めつけはやっぱり多少あって。

全員がかっこよくなくていい

塩瀬 右下に、稼ぐだけの子というのがいたんですけど、この子は最初すごくモジモジしていて、全然声も出せない。声が出せないけど、みんなに「来てください」と言って、そこは未来旅行者、大人の人が来て案内するという仕事をしていた。最初は全然お客さんが来てくれなくて、声も出せなくてモジモジしながら、来ていただいた方に「新しいコインを渡す」という仕事をしていたんです。後半になっても全く転職せず、ずっとそこにいたんですよね。その仕事が好きだったみたいで。結果、全く動かなかったという意味で、「いいね」を稼ぐ場所がほぼなかったんですが、最後のほうには、お客さんが来すぎて、貸し出した大人用コインも返ってこなくて、次のお客さんに渡すコインがなくなってしまった。そうしたら、街の中で、マイクは基本政治家の人しか使えないというていにして、ブロードキャストができないようにしていたんですが、そこから借りて、コインが足りないので返してください、というリーダーシップを発揮し、すごいなと思いました。
 だから、稼ぐだけというのも悪いわけではないし、「いいね」だけでももちろん悪いわけではない。両方ハイブリッドで、ひよったかたちの目標をつけすぎたなと思って。いろんな方向に成長があったり、いろんな子にとってのペースがあったりするので、その全部が、データの中では見えてはいたけど、データをどう見るかということに、大人の偏りがあった。その全部を褒めたいなと思ったとき、データの見方に対して大人側が褒める言葉や褒めるレパートリーが足りてないな、というのは反省していて。でも、子ども同士は、そんな褒められたいと思っているわけではないんだけど、見えた数字を大きくしたいというのは傾向としてあるみたいです。競う場所がたくさんあったほうがいい感じで。だから売上だけだったりすると、ただただ売上になるんですけど。最近、その方向を「価値観」と言っていて、「いいね」という一言じゃなくて、かっこいい、かわいい、面白いなど、いいねの方向性を増やして、全員が全員かっこよくなくてもいいなと。

若原 じゃあ何か買い物したとき、「いいね」を押す代わりにその解像度を一段上げて、その「いいね」が、かわいいなのか面白いなのかを分けたと。

デジタルになるとアナログの良さが消えてしまう?

塩瀬 あと実際、なんかいいというのもあるんですよね。どれかにはできないけど、という意味で。かわいいお店で働いていると、かわいいが増えていくというのがあるかなと思って。「スタバでテレワークしている自分への酔いしれ」みたいな。ありますよね?「こういう雰囲気で働いていたい」みたいな。だから、自分たちを色づけするとき、「そういうお店を選んでいたりするんだ」とすると、お店側の価値提供も、単にコーヒーの香り味、値段以外にも、お店の雰囲気としてスタイリッシュな部分を見せたかったり、ガチャガチャした部分を見せたいというのもあったり。お店も、その多様な価値を全面に出していくという手段ができるのかなと。みんなデジタルになると、「アナログの中での個性が消える」という言い方をするのは、さっき言っていた、オールドファッションからすると、新しく現れたやつの悪いところを見たいから消してしまっているところで、デジタルも上手く使いこなせば、個性化を上手く引き出すことができると思うんです。でも、それは使い方の問題だと思うんです。失敗すると、デジタルは画一化を加速させるので。そこが使う側のリテラシーなのかなというところがあるので、そういうのが練習できる場所を増やせたらな、というのがこの「ミニフューチャーシティ」の仕掛けの1つです。

いろいろな人生の歩み方があるということを伝えられる

若原 めちゃくちゃ面白いですね。横軸に「稼いだお金」、縦軸に「獲得したいいね」のグラフ、あれも例えば4象限に切ったとき、どこが良い悪いというのが一元的に決まらないということも面白いなと思いますし、世の中とか人生ってそういうことなんだよっていうのを問いかける素材としても面白いと思いました。お金を稼ぐということに幸せを感じてもいいわけだし、お金を稼がなくても、いいねを得ていくことも幸せなわけだし、両方頑張ってもいいわけだし、みたいな。いろいろな人生の歩み方があるんだよというのが図からいろいろ読み取れる気がして、すごく学びの場として素晴らしいなと。

人に評価をネガティブにつけられるというのが習慣化してしまっている

塩瀬 評価というのがそもそもすごくネガティブに受け取られがちじゃないですか。それは誰かに点数をつけられたり、誰かに序列化されるというのを連想するから。評価は、本当は自分のためにあって、自分でやればいいもので、それが多分、さっきの自分の居場所を見つけることなのです。それを、誰かにつけられると思っているからすごく嫌なんだなと。可視化も、自分にとっての可視化であれば、これ多すぎたな、少なすぎたな、とか、もっとこうしようって自分で使えるんだけど。人に評価をネガティブにつけれるというのが習慣化してしまっているので、デジタルでデータを入手できるというのが、今のままだと多分上手く行かないなと思うのはなぜかというと、自分じゃない誰かが勝手にとったデータで、自分じゃない誰かが勝手に使うデータとなるから。学校のポートフォリオとか通信簿もそう。今仕掛けたいことの1つは、「自分で作る通信簿」ですね。

自分で作るワガママ通信簿 / 人に決めてもらう習慣が多すぎる

塩瀬 自分は、ここまで学んだのでもっとこうしたい、これが嫌いなのでこうしたいとかっていう、「わがまま通信簿」というのを今、広めようと思っていて。自分で見てほしいところを、枠を広げておいて先生にアピールするとか、先生が見たいところも多少はあるだろうから、そこは先生にもスペースは用意するけど、自分が見てほしい、自分が変化を知りたいところは解像度を高くすればいい。どうでもいいと思っているところは解像度を低くすればいい。そうすると、評価を自分で見たいと思うようになるのかなと。もちろんそれを、採用する、採用しないは、また誰か別の人が見るんだろうけど、どうしても人に見てもらうとか人に決めてもらうという習慣が多すぎるような気がするんです。

IoTがうまくいかない理由 / データをどう使うかを習慣化する

塩瀬 自分のことって、なかなか自分で知ることが難しいので、そのときにデータって役立つと思うんですよね。めっちゃ長いことしゃべっているなとか、それはデータ量ではっきりとしますよね。このとき寝てました、とか。それを自分で使えばいいのかなと。だから、もう少しデータにして、データを自分でフィードバックして、という習慣を持ったとき、本当にデータドリブン社会みたいなものが上手く機能するんだろうなと思うんです。、今「データの価値」がよくわからないまま、やたらセンサーだけみんなつけてて。IoTをどんな工場に入れようが、どんなオフィスに入れようが、上手く行かないのは、データをどう使うかが習慣化していないから。だから、そこをまず先にやらないと、データの解像度を上げてもゴミが増えるだけになるかもしれないな、と思います。

若原 確かにそうかもしれないですね。そういう「ミニフューチャーシティ」みたいなことを一度でも経験した人であれば、データを使う目的を上手く設定できるという、そういう価値観に変わっていきそうな気もしますね。

塩瀬 そういうのも期待しつつ。

若原 なるほど。今日は本当にいろいろ面白いお話を伺いまして、塩瀬さん、ありがとうございました。

塩瀬 ありがとうございます。

若原 最後に改めて思ったのは、さっきの博物館、美術館の話にも通ずるんですけど、こういうふうにオンラインでいろいろおもしろいお話をさせていただくと、またリアルに飲みながら話したいなという気持ちが生まれて、オンラインで見ると美術館に実際行ってみたくなるみたいなことが、ここで同じようなことが起こっているなという気がしました。また落ち着いたらぜひリアルに遊びに行かせてください。

塩瀬 そうですね、ぜひ。

若原 じゃあ、今日は本当に長い時間ありがとうございました。

塩瀬 こちらこそ。ありがとうございます。

ーーーーーー
いかがでしたか?
塩瀬さんとの対談は以上になります。引き続き、当サイトでは弊社エバンジェリストの若原と各界の素敵なゲストによる対談をお届けしていきます。
ぜひお楽しみに!

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トレジャーデータ株式会社

2011年に日本人がシリコンバレーにて設立。クラウド型データマネジメントソリューションを提供しています。日本では2013年から本格的に事業を展開し、デジタルマーケティングやデジタルトランスフォーメションの根幹をなすデータプラットフォームとして、すでに国内外400社以上の各業界のリーディングに導入いただいています。
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