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Armとはどんな企業か?同社が見据えるIoT社会とその戦略

トレジャーデータのロゴに「arm」の3文字が加わったのは2018年のこと。英国に本拠を置くArm(アーム)社の一員となったことによるものです。2016年にソフトバンクが3兆円以上を投じて買収し話題となったArmとは、いったいどんな企業なのでしょうか。2019年12月20日に開催されたエネルギーハーベスティングコンソーシアムと早稲田大学 重点領域研究機構アンビエントロニクス研究所による合同シンポジウムに登壇したArm日本法人のIoTセールス&事業開発ディレクター春田篤志氏が、同社のこれまでの歩みと、同社が見据えるこれからのIoT社会像を語りました。

あらゆる機器に組み込まれるArmのテクノロジー

冒頭で春田氏はArmの事業概要を説明した。同社は「CPUのチップを製造している会社」だと誤解されがちだが、実際には製造は手掛けていない。CPUのアーキテクチャを考え、設計図を半導体メーカーにライセンス供与する。携帯電話をはじめ、ありとあらゆる組み込み機器の中でArmが設計したCPUが稼働している。

Armはもともと1990年にAcorn ComputersとAppleのジョイントベンチャーとしてスタートを切った会社だ。90年代前半にはNokiaが携帯電話の通信を司るベースバンドプロセッサチップに採用されたのを皮切りに、さまざまな企業で採用が相次ぎ、現在では、iPhoneとほとんどのAndroid端末に採用されているほどのシェアを獲得している。またスマートフォン1台を見ても、搭載されているArmプロセッサは、アプリケーションプロセッサやセルラーモデムのほか、Wi-Fi、GPS、カメラなど合計20点以上に及んでいる。

そのほか、白物家電、黒物家電、産業機器のコントローラなどのあらゆる機器はもちろん、最近ではデータセンターのサーバーやスパコンにもArmのテクノロジーが搭載されている。

こうしてあらゆるデバイスに搭載されたArmプロセッサは、これまでの出荷数累計で1500億個以上の実績を誇る。2017年までの26年間で累計1000億個だったが、その後の4年間でも同じく1000億個の出荷を見込んでいる。

「AI、自動運転、拡張現実(AR、VR、MR)、5G、クラウド、IoTなど新たな技術領域が拡大するいま、どの領域でもCPUが必要になることを見据えて活動しています。新たな事業領域としてサーバー、ネットワーク、ハイパフォーマンスコンピューティングでも存在感を出していくために取り組んでいます」と春田氏は説明する。

アーム株式会社 IoT セールス&事業開発ディレクター 春田 篤志 氏アーム株式会社 IoT セールス&事業開発ディレクター 春田 篤志 氏

コネクテッド社会の到来で変化するArmのビジネス

Armが大きなビジネスチャンスとして捉えているのが、ありとあらゆるモノがつながるコネクテッドデバイス社会だ。

その社会の到来に向けて同社ではPower、Performance、Areaからなる「PPA」の設計思想(高性能で電力効率の高いCPUをいかに小さい面積で実現できるか)に加え、適応領域が自動運転や社会インフラに及ぶようになることを見据え、機能安全、データ保護、ハッキング対策といった「Safety」、「Security」も重要なキーワードとして設計思想に取り入れ、開発を進めている。

また近年、同社ではプロセッサの設計だけではなく、クラウド側でデバイスやコネクティビティ管理を行うためのIoTプラットフォーム「Pelion IoT Platform」にも取り組んでいる。春田氏は「これまでのArmが貢献していたのは、コンピューティングのベース部分にとどまっていました。現在では、ソフトウェア、クラウド領域といった上位レイヤーでも価値を提供できるように取り組み始めています」と説明する。

Armのビジネスモデルは、IP(知的財産)を開発し、半導体メーカーにライセンス供与することで成り立ってきた。半導体チップの出荷数が増えているためにビジネスも伸びているのだが、逆に言えば事業領域は1つだけしかないことになる。そこで新たな収益源としてArmが注目しているのはサブスクリプションといったサービスビジネスの領域だ。

世界の半導体市場は40兆円規模であるが、世界のIT支出全体を見てみると、その規模は350兆円にも及ぶと言われている。そこで同社としては、高付加価値なプロセッサの開発を継続し、既存の大きなフットプリント(機器への組み込み数)をより盤石なものにすることはもちろん、ソフトウェア、ハードウェア、さらにその先のIT事業までを見据えている。その大きな柱がIoTの領域である。

これからのビジネスにIoTがもたらす価値

春田氏は、次に「IoTが実現していく近未来の社会」というテーマを移し、講演を進めていった。これまでのデータはシステムに入力したデータなど人が作り出したものが多かったが、IoTの時代ではそうした状況は変わりつつある。

「これからは、産業や社会インフラから生まれるフィジカルデータがますます重要になってくると考えています。こうしたデータは、故障予測や歩留まり向上などのためにすでに断片的に活用されていますが、これからは、人が作り出したデータと組み合わせることで、より有用な知見を得ることが競争領域になってくるでしょう」と春田氏は説明する。

こうして得られた知見を機器やインフラにフィードバックすることで、新たな高付加価値のサービスを生み出していこうという考えだ。2035年までに稼働するIoTデバイスは累計で1兆個と予想されており、フィジカルデータを急増させることになりそうだ。

「この領域はビジネスチャンスです。データを取るだけではなく、いかに有用なアプリケーションにできるか。ユースケースに結びつけて価値を創出し、真のデジタルトランスフォーメーションを進めていくことが重要になってきます」(春田氏)。

基本的にデータは「新しい収益機会を作る」「オペレーションの効率を上げる」「コストを削減する」といった方向性で使うことになる。新しいサービスやビジネスモデルをどう作っていくかがテーマになるが、単体の企業でできることは限られているため、他社のノウハウやサービスと上手く組み合わせることが重要になると春田氏は指摘する。

また電子デバイスにおいても、出荷時点で機能が決まっているのではなく、リリース後もどんどん進化していくようになるという。ほかにもマシンラーニングによって学習した推論モデルをエッジ側デバイスにダウンロードして使用することも活発化してくるだろう。

エンタープライズITやWeb、モバイルの世界で生成されるデータと、モノから収集されるデータを結びつけることで、ビジネスの収益や効率を高めたり、コストを低減したりできる新たなアプリケーションが今後生まれてくる。エンタープライズITやWeb、モバイルの世界で生成されるデータと、モノから収集されるデータを結びつけることで、ビジネスの収益や効率を高めたり、コストを低減したりできる新たなアプリケーションが今後生まれてくる。

「もう1つ大切なのが、顧客との接点をいかに作るかです。例えば、単純に保守するだけでなく、上がってくるデータをもとに、お客様が何をしたいのか、お客様が気づいていないことを提案できることが必要になってきます。いかに接点を増やして、サービスを使い続けていただけるようになるか。その上で価値を上積みしてくことです」と春田氏。この世界観を実現するために、Armが近年新たに設けた組織が「IoTサービスグループ」である。

IoTの3つの要素を管理するクラウドサービスを提供

IoTサービスグループは、従来の半導体領域(半導体IPグループ:IPG)の知見や機器組み込み実績を生かしつつも、組織としては独立している。事業としては「Pelion」と呼ぶIoTプラットフォームを提供し、大きく3つのサービスから構成される。それが以下の通りだ。

コネクティビティ管理サービス:IoT向けのSIMやeSIMを提供し、セルラー回線そのものを世界各地のローミングサービスで利用可能にする。200以上の国と地域をカバーし、400を超えるセルラーネットワークに対応。また、回線を管理するためのプラットフォームとして、さまざまなキャリアのネットワークでつながった機器を一元管理できる仕組みを備える。

デバイス管理サービス:デバイス認証、ライフサイクルにわたるセキュアなデバイス管理を実現。一例として、ファームウェアのアップデート、きめ細かなアクセスコントロール、デバイスのポリシープロファイル管理などが可能。

データ管理サービス:デバイスで収集したデータの加工処理における労力を軽減。データレイクとともに、使いやすい形でデータを各種アプリケーションにつなげていくことができる。

Pelion IoT Platformの全体像。IoTの3つの要素すなわち「コネクティビティ」「デバイス」「データ」を管理するクラウドサービスである。Pelion IoT Platformの全体像。IoTの3つの要素すなわち「コネクティビティ」「デバイス」「データ」を管理するクラウドサービスである。

さらに、IoTデバイスそれ自体の開発期間を短縮・容易化するためのサポートも提供している。春田氏は「IoTデバイス向けの組み込みOSを提供したり、半導体メーカーなどさまざまなプレイヤーとパートナーシップを結んでリファレンスデザインを出したりしています。これらを活用すれば、IoTデバイスを開発し、そのデバイスをネットワークにつないで管理しつつ、集めたデータを活用することころまで効率的かつ簡単に実行できます。しかもPoC(概念実証)レベルではなく、商用レベルでも利用できるプラットフォームです」と紹介する。

このプラットフォームの応用先としてArmが注力するのは、スマートシティやスマートビルディングなどのコネクテッドスペース、電力事業者などのユーティリティ、そして物流や小売などロジスティクスの分野だ。実際のユースケースとしては、顔認証情報を扱うAIのエッジデバイスを監視管理するプラットフォームや、店舗でスマートフォンを非接触充電するシステムの構築、産業用のセキュアなゲートウェイなどに利用されている。

最後に春田氏は、「IoTは当初喧伝されたレベルでは市場が立ち上がっていない状況であり、まだ始まったばかりの領域です。日本は製造業や電子デバイスが強いため、フィジカルデータは競争力がある領域です。皆様と一緒にビジネスイノベーションを創造していければと考えています」と締めくくった。

ゲートウェイ管理のデモを展示

講演後に開かれた意見交換会の会場では、Armが「エネルギーハーベスティング対応回転機器予知保全ソリューション」のデモを展示した。東芝などが出資する株式会社デバイス&システム・プラットフォーム開発センター(DSPC)が手掛けた「無線振動センサーモジュール Vibnexus」を工場の設備に取り付け、その設備が発する振動情報を収集、またクラウドへ送信することで故障の予兆を捉えることを目的としたものだ。なお無線振動センサーへの給電に、温度差発電や室内光発電などの環境発電(エネルギーハーベスティング)が利用されている。

このソリューションに、Arm Pelion IoT Platformのデバイス管理機能「Pelion Device Management」を組み込むことによって、振動センサーとクラウドをつなぐゲートウェイの一元管理を実現する。ゲートウェイへのデバイス登録や、ファームウェアのセキュアなアップデート、リソースマネジメントなど、更新や運用にいたるまでゲートウェイおよびデバイスの状態をクラウドから管理できるようになる。今後、ゲートウェイを介して多数の低消費電力のセンサーをつなぐ構成が一般的になってくれば、このような仕組みは極めて重要になってくるだろう。

「エネルギーハーベスティング対応回転機器予知保全ソリューション」のデモの様子。真中央のノートPCの右側にある箱型のデバイスが無線振動センサーモジュール Vibnexusである。「エネルギーハーベスティング対応回転機器予知保全ソリューション」のデモの様子。真中央のノートPCの右側にある箱型のデバイスが無線振動センサーモジュール Vibnexusである。
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アーム株式会社

英ケンブリッジに本社を置き、半導体設計やIoTクラウドサービスを手がけています。エネルギー効率に優れた高度なプロセッサ設計は、センサーからスマートフォン、スーパーコンピュータまで、さまざまな製品に組み込まれ、世界人口の70%以上に使用されています。さらに、そのテクノロジーにIoTソフトウェアやデバイス管理プラットフォームを組み合わせ、顧客がコネクテッドデバイスからビジネス価値を生み出すことを可能にしています。
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