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エネルギー業界の事業構造を変える「3つのD」とは? 電気新聞が欧州レポート発行

――デジタル化がもたらす、電力・エネルギー業界のイノベーション最前線

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電気新聞は、英・独企業の戦略にみるエネルギービジネスの新潮流をまとめたレポート「Data-Driven Innovation 欧州エネルギービジネスの新潮流」を発行した。現在、世界のエネルギー産業では“3D”すなわちDe-Carbonization(脱炭素化)、Decentralization(分散化)、Digitalization(デジタル化)の3つをテコに、新たなビジネスモデルへの転換が進んでいる。同レポートは、現地視察を通じてそのリアルな動きを捉えたものである。執筆にあたった電気新聞の圓浄 加奈子氏に、同レポートの読みどころを聞いた。

3つの“D”が相関して電力・エネルギー業界は新たな姿に

――今回、「Data-Driven Innovation 欧州エネルギービジネスの新潮流」をまとめられた背景を教えてください。

電気新聞主催の欧州視察ミッションの視察レポート「Data-Driven-Innovation 欧州エネルギービジネスの新潮流」

電気新聞主催の欧州視察ミッションの視察レポート「Data-Driven-Innovation 欧州エネルギービジネスの新潮流」
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圓浄氏: 本レポートは、2019年3月に実施した電気新聞の欧州視察ミッションでの内容がベースとなっています。テーマは「『3D』というドライバーが進める、欧州のエネルギー事業の変革をみる」ことです。

3Dとは今、世界中のエネルギー事業の構造を大きく変えているキードライバーで、「De-Carbonization(脱炭素化)」「Decentralization(分散化)」「Digitalization(デジタル化)」の3つです。地球温暖化防止への意識の高まりを受けて、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)が世界規模で急速に普及し、技術開発やコスト低減が進みました。

ほぼ同時に産業界全体に押し寄せていたデジタル化は、こうした分散化の進むエネルギー資源を従来のエネルギーシステムと調和・制御する技術としても注目され、3つのDが互いに相関して、電力やエネルギー業界は新たな姿に移行しつつあります。

このため今回は、従来の視察ではあまり見て回ることがなかった企業や団体も多く訪問しました。ブロックチェーンによるエネルギー・環境証書取引を試みる団体、電力のスマートメーターからとれる多くのライフログの活用を調整している英国の政府系機関などのほか、自動運転技術開発で気を吐くBOSCHの研究所、またこれまで電力会社とは直接のかかわりが多くなかったArmの本社などを訪ねたのも大きな特色です。

電気新聞 メディア事業局 圓浄 加奈子 氏

電気新聞
メディア事業局
圓浄 加奈子 氏

――このレポートは、どんな方に、どんな形で役立つコンテンツになっているのでしょう?

圓浄氏: 電気新聞は専門紙という性格上、電気事業やエネルギーに携わるプロフェッショナルの方々向けの紙面制作や事業を展開しています。レポートの視点も、そうした方々向けに書いているところも多くあります。海外で起こっている事象や新しいビジネスモデル、特に欧州や米国の影響は即座に日本に波及してくる状況です。『対岸の火事』ではなく、国内での事業動向同様の出来事として、まずは電力・エネルギー事業に関心のある方々に関心をもって読んでいただければと考えています。

――電力業界以外のビジネスパーソンにも参考になりますか。

圓浄氏: もちろんです。読みやすくはないかもしれませんが、他の産業界の方々にもぜひ読んでいただきたいと思っています。というのも、電力やエネルギーは収益の基本的なビジネスモデルがそもそも「as a service」であり、あらゆる産業が事業を行う上で必要不可欠な財となっています。その価格動向や需給バランス、また供給の途絶などは全産業に影響が及びます。

個人にとっても、普段は意識せずとも必ず、自分自身の生活のベースに関わっています。デジタルや新たなビジネスモデルにはかなり遠そうなイメージの電力業界ですが、イギリスやドイツの事業者たちが果敢にチャレンジを始めている様子をぜひ知っていただければと思います。

「3D」をキーワードに、小売り、流通、自動車や金融などの業界との融合や技術導入によって、電気事業そのものが従来の姿を自ら変えようとし、また逆に他業界からもエネルギーの世界でのビジネスチャンス見出そうとしている。そうしたダイナミックな動きの一端もレポートに盛り込んでいるつもりです。

IoTをフル活用、電力データを活用したイノベーション事例も

――とても興味深いです。各セクションのテーマと読みどころを教えてください。

圓浄氏: 第1部の「配電プラットフォームのイノベーション」では、太陽光発電や電気自動車が大量に入ってくることで電力系統の状況がどう変わるのか。当該エリアの住民の家族構成やライフスタイルまで、あらゆる情報を集めてシミュレーションするドイツのDigiKoo社が開発したシステムを紹介しています。これまでブラックボックスだった電力系統をあえて「見せる化」し、合意形成や意思決定の透明化・迅速化するツールとして活用しているのです。さらに、電力会社はこのシステムを外販もしようとしています。

第2部の「電力データ活用への挑戦」では、英国で電力量データの収集と提供を一手に担っているDCCの取り組みを紹介しています。デジタルイノベーションを進める上で、各世帯の電力使用量データをどう活用していくのか。日本でも経済産業省の研究会を中心に議論が活発化しているだけに、ぜひ注目していただきたいと思います。

第3部の「インフラ革新とエネルギー産業 学びか、競合か」では、先に少し触れたドイツのBOSCHが行っている自動運転の実証実験の様子もレポートしています。社会的にも注目されているMaaS(Mobility as a Service)の環境構築に今後、電力会社をはじめとする社会インフラ事業者が深く関わっていくことになる動向をつかんでいただけます。

――ひるがえって、日本の状況はどうですか? 視察に参加した方々の感想や意見も含めて、教えてください。

圓浄氏: 視察メンバーの多くは電力企業の幹部で、皆さま総じて前向きです。新規参入者から追い立てられて変わるという受け身の姿勢ではなく、自らが主体となってイノベーションのドライバーにならなければならない、そうでなければ生き残れないと考えています。今回の視察を通じて欧州の動きを目の当たりにしたことで、その思いをさらに強くされたようです。

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日本でも求められる多様な産業界との融合

――今後、日本ではどういったことが起こっていくのでしょう?

圓浄氏: 冒頭に申し上げた「3D」は、今後も大きなキーワードです。脱炭素化は待った無しというのが恐らく世界的な認識ですし、分散的なエネルギーの制御にはデジタル技術が必須になる。3つが組み合わさりながら、エネルギーの世界を大きく動かしていくと思います。

具体的には、従来の「大規模発電→大規模送電→電圧を落としてビルや家庭に順次供給」という仕組みから、ある限定されたエリアでの独立系統型のエネルギー供給の仕組みや、VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)などを発展させ、社会のさまざまなところに存在するエネルギーを、デジタル技術を活用してきめ細かく活用するなどの動きが進むのではないでしょうか。

そうなると、蓄電や個人間での電力取引、計量の仕組みなど、さまざまな新しい仕組みが必要になり、こうした部分に強みを持つ別の産業界との融合も期待されます。電気自動車の普及と蓄電、充放電技術と管理などは、自動車業界や計量システムを構築していく事業者との連携が必要です。

2019年10月に発表がありましたが、Armやトレジャーデータなど10社で最近立ち上げた系統独立型のコネクティッド住宅プロジェクト「OUTPOST」などの取り組みも、まさにこうした多様な業界の融合によって新たなイノベーションが生まれる仕組みではないかと思っていて、非常に注目しています(参考:OUTPOSTプロジェクトに関するトレジャーデータのプレスリリース)。

――日本の読者が、行政や企業、社会などの幅広い分野で、今後注視すべきトピックがあれば教えてください。

圓浄氏: 3Dに加えて注目すべきと思っているのが、レジリエンスです。災害への対応力・復旧力という意味で用いていますが、世界的に気候変動の影響が大きく災害が激甚化しています。これまでのインフラなど日本の社会システムは強固な設備作りで進めてきた感がありますが、被害を受けてもダメージを少なく、復旧を素早くするシステムという発想も重要になるかと思います。

また、日本の場合は4つ目のD、すなわち「De-Population(人口減少)」もあります。こちらも過疎化や高齢化が進む社会におけるエネルギーシステムのあり方という課題ですが、ここは今回の台風19号の被害などをみても、レジリエンスとの兼ね合いで重要になるポイントではないかと思います。電気事業はあくまでも地域と一体ですので、こうした視点からのイノベーションも求められていると思います。

――貴重なお話をありがとうございました。

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アーム株式会社

英ケンブリッジに本社を置き、半導体設計やIoTクラウドサービスを手がけています。エネルギー効率に優れた高度なプロセッサ設計は、センサーからスマートフォン、スーパーコンピュータまで、さまざまな製品に組み込まれ、世界人口の70%以上に使用されています。さらに、そのテクノロジーにIoTソフトウェアやデバイス管理プラットフォームを組み合わせ、顧客がコネクテッドデバイスからビジネス価値を生み出すことを可能にしています。
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