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「枠」を突き抜けるイノベーションの起こし方【後編】|田子 學 × 若原 強

PLAZMA CROSSTALK|
株式会社エムテド 代表取締役 アートディレクター/デザイナー 田子 學氏
トレジャーデータ株式会社 エバンジェリスト 若原 強

株式会社エムテドの代表である田子學氏は、三井化学をはじめ多くの企業に「デザインマネジメント」を導入し、イノベーションを実践しています。Arm Treasure Dataのエバンジェリスト若原強がお話を伺いました。後編です。

イノベーションを求める組織に「多様性」と「試行錯誤」が必要な理由

(前編はこちら:「枠」を突き抜けるイノベーションの起こし方【前編】)

若原 田子さんはデザインマネジメントの必要性を説かれていて、多くの企業における実践にも携わっていますよね。

例えば、総合化学メーカーとして素材を開発している三井化学さんの事例を拝見しました。そこでは、研究者に「素材の特性を言葉にする」「五感で考える」といった課題を与えたり、同社はBtoB事業しか展開していないにも関わらずエンドユーザーがあつまる展示会に出展したり、「製品」を開発して販売するといった取り組みをされていました。

これらの取り組みは、先程のポルシェのお話にも通じる「修行」のような印象を受けたのですが、どのような狙いがあったのですか?

田子 「自分で勝手に限界を作っていないか」を確かめたかったんですよ。私は外部の人間ですから、三井化学さんの研究者たちの限界値も知り得ませんし、個人個人のポテンシャルもわかっているわけではありません。

ただ、「人間は、自分の見えている範囲外のことを提案された際に、ワクワクできる」という点が大切なポイントだと思うのです。自分で見えている話を持ちかけられても「それなら自分でやったほうが早いよ」と受け止めてしまうんですよね。

若原 自分で「枠」を作ってしまうことはありますよね。ですから、田子さんが提案されたような「自分をコンフォートゾーンから引っ張り上げてくれる投げかけ」がとても重要なのでしょう。

例えばですが、日本では「理系か、文系か」の枠が邪魔をすることもありますよね。「私は理系の院卒で化学メーカーの研究者だから、アートや感性の領域に口出しすべきではない」と自制してしまう人もいると思うんです。

株式会社エムテド 田子氏

田子 海外では「理系・文系の枠」なんてありませんしね。

若原 そうなんですよ。日本でいう理系の分野も文系の分野も専攻する「ダブルメジャー」だって珍しくありません。

田子 ただ、日本でも「理系・文系の枠」は以前よりも廃止され、徐々に統合されてきているように感じますね。もちろん、教育の制度ではこれからも続いていくでしょうが、「理系・文系の捉え方がいかに狭義の話だったか」と理解する人も増えてきているんです。

私が特別招聘教授として在籍している慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科は、まさにそういった場になっていますね。学生には医者、弁護士、ベンチャー企業経営者、芸人など多様なバックグラウンドを持っている方も非常に多いんです。多様性がありすぎて、意見がまとまらないことも珍しくありません。しかしながら、様々な意見が出てくる場では、イノベーションを阻害するような要因はほとんどなくなりますね。

若原 やはり、イノベーションを起こしていくためには、多様性が重要なファクターになるわけですね。

田子 「多様性がない」ことは、「バイアスにとらわれている」こととイコールなんです。

「誰も考えつかなかった回答だけど、ロジックは成り立っている仕組み」が「イノベーションの種」です。今までと同じことをやっている人が、その回答を出すことはやっぱりむずかしいですよね。自分たちの得意な分野だけを掘り下げることは、イノベーションではないのです。日本には先程の理系・文系のように、狭義で捉えて枠が作られてしまうケースが少なくありません。ですから、イノベーションを必要としている組織は、一度は多様性がある場を作るべきだと思いますね。

若原 その他に、イノベーションを起こしたい方、特に経営層に必要なことはなんだとお考えですか?

田子 「スピード感をもって試行錯誤すること」ですね。これが今できていないような気がするんです。

組織の中で「確実性」が求められることはわかります。でも、現在は不確実性が非常に高まっている時代ですよね。「確実にヒットする」ものは存在せず、経験値でカバーするほかないのです。そして、その経験値は当然のことながら経験からしか得られません。

この経験値が多ければ多いほど、試す期間は短くなります。経験値がないと試す期間すら時間が掛かるため「試すこと自体が面倒だ」と考えてしまうんです。

経験値がない企業でもとりあえず我慢して試してみてください。すると、ノウハウが得られますから、試す期間は必ず短くなるのです。必需品以外に人がなかなかお金を払わない時代です。この時代にどのようにすればお金を払ってもらえるかを見つけるには、試行錯誤を続けるほかありません。

インフラから「独立」した住宅をArm Treasure Dataが仕掛ける意義

若原 昨年10月、私たちArm Treasure Dataは、田子さんのエムテド社をはじめとする10社のパートナー企業と協業し、オフグリッド型コネクテッド住宅「OUTPOST」を発表しました。オフグリッドとは都市ガスや電気、水などのインフラから独立しているという意味です。「OUTPOST」はオフグリッドでコンテナ型の住宅なので、どのような場所にも設置できることが特徴に挙げられます。そして、各パートナー企業が提供するテクノロジーや私たちのデータ分析基盤を活用して、より快適で健康的で豊かな暮らしを実現しようというプロジェクトですね。

Arm Treasure Dataのプロダクトは、これまでデジタルマーケティングの領域での導入がメインでしたから、このプロジェクトは社内でもとてもイノベーティブなものだったんです。

田子さんには「OUTPOST」のデザインとデザインマネジメントをお願いしているわけですが、改めて「OUTPOST」プロジェクトがどのようにスタートしたのか振り返っていただけますか?

OUTPOST

田子 そもそもは、Arm Treasure Dataと、全く具体的な構想がない状態でお話したことがスタートだったんですよ。「データを活用して、なにかユーザーに体験させることをやってみたいんですよね」って相談を受けまして。

若原 とてもざっくりですね(笑)。

田子 そうだったんです(笑)。その当時、私には気になっていたことがふたつありました。まず、様々な方が、ひとりでも地方で活動を始めていたり、地方に人を呼び込もうとしている動きが活発になっていると感じていました。そして、そのような活動の延長には、必ず「オーベルジュ」というキーワードがありました。「オーベルジュ」が注目されるようになっている背景には、いかに顧客と長い時間接して、エンゲージメントを高めていく「場」が求められているということだと思います。これがひとつですね。

もうひとつは、私のクライアントやパートナー企業、知っているスタートアップがとてもおもしろい技術を開発していることでした。ただ、余計なお世話ではありますが、その技術をどう展開していくのか少し疑問を持っていたんです。小売的な発想しかなく、その技術自体のバリューが高まる戦略をもっているようには見えなかったからです。それではもったいないので、日本なりのエコサイクルが生まれる空間を作れないかと考えていました。

そして、「技術」と「場」が「データ」で結びついたらいいのではないかと考え、車や船で運べるコンテナ型住宅をArm Treasure Dataの方に提案してみたんですよ。「実現すると暮らしにどのような変化が起きるのか」という絵図を見せたところ、「それでいきましょう!」と賛同してもらえました。

若原 今後「OUTPOST」プロジェクトがどのように進展していくとお考えかお聞かせください。

田子 「OUTPOST」は実証フェーズに入っていると思うんです。まずはArm Treasure Dataの社員の方にはガンガン使ってもらい、どうすれば便利になるかをどんどん仕掛けてもらいたいですね。繰り返しになりますが、自分たちが経験値を高めることでしか、人とのエンゲージメントを高める方法は見つかりません。そして、どうすれば快適な暮らしができるのかが、試行錯誤を繰り返すほどデータとして蓄積されるわけですよね。単にコンテナ(箱)を作っている企業との決定的な差がそこにはあるわけです。

ハードウェア屋さんがハードウェアを作れるのは当たり前なんです。旧態依然とした業界にバイアスがあるのならば、新しいプレイヤーがモノづくりをすることで、全く新しい世界が拓かれると信じています。今日、多くの日本企業は、意味も、生産性も、利益も生み出さずに停滞しているんです。でも、抜本的に舵を切り直すほどの危機感を持っているわけでもありません。それであれば、新しいプレイヤーが世界を加速させるべきではと思うんです。

これまでArm Treasure Dataは、コンピュータの中で数値を扱う領域が主戦場だったと思います。でも、今後はそのデータをいかに体験につなげていけるかという点が重要だと感じています。政府が「ソサイエティ5.0」を掲げる中、「OUTPOST」のようなプロジェクトに最も早く取り組んでいる点は大きな意味を持つでしょう。

今後も創造性が高いプロジェクトに恐れをなさず、情報をオープンにして、さらに突っ走ってほしいですね。

トレジャーデータ株式会社 若原 強氏(左)、株式会社エムテド 田子 學氏(右)

田子 學(右)
たご・まなぶ 株式会社エムテド 代表取締役。アートディレクター/デザイナー。慶應義塾大学大学院特別招聘教授。東芝デザインセンター、リアル・フリートでの勤務を経て、2008年にエムテドを創立。

若原 強(左)
わかはら・つよし トレジャーデータ株式会社 エバンジェリスト。SIer、コンサルティングファームなどでの勤務を経て、2019年12月、トレジャーデータへ参画。

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トレジャーデータ株式会社

2011年に日本人がシリコンバレーにて設立。クラウド型データマネジメントソリューションを提供しています。日本では2013年から本格的に事業を展開し、デジタルマーケティングやデジタルトランスフォーメションの根幹をなすデータプラットフォームとして、すでに国内外400社以上の各業界のリーディングに導入いただいています。
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