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「枠」を突き抜けるイノベーションの起こし方【前編】|田子 學 × 若原 強

PLAZMA CROSSTALK|
株式会社エムテド 代表取締役 アートディレクター/デザイナー 田子 學氏
トレジャーデータ株式会社 エバンジェリスト 若原 強

株式会社エムテドの代表である田子學氏は、三井化学をはじめ多くの企業に「デザインマネジメント」を導入し、イノベーションを実践しています。Arm Treasure Dataのエバンジェリスト若原強がお話を伺いました。

あえてシェア2%を上限にするデンマーク企業のブランディング

若原 本日は田子さんと「企業がいかにブランドを作っていくのか」「いかに組織にイノベーションを起こしていくのか」をテーマにお話したいと考えています。

田子 まず、「ブランド」のお話からしましょうか。デンマークの「バング&オルフセン」というオーディオメーカーをご存知ですか?

若原 どのようなメーカーなのですか?

田子 エンジニアリングに長けた二人の技術者が起こしたメーカーなんです。デンマークは産業が盛んな国ではありませんが、彼らは非常にいい音が出るスピーカーを開発しました。ただ、そのスピーカーは、音質は優れているものの「見せるセンス」には乏しいものでした。そこで、デンマークのデザイナーであるヤコブ・イェンセンが「きみたちのすばらしいスピーカーは、国益にも成りうる。だから私にデザインさせてほしい」と申し出て、デザインを担当することになったんです。そのデザイナーは「オーディオという個の単体」をデザインしたわけではなく、「空間全体から見たオーディオ」というアプローチでデザインしていきました。これが現在の「バング&オルフセン」の入口なんです。

このポリシーは数十年以上経過した今でも全く変わっていません。プロダクトは360度どこから見ても美しく、裏から見てもキレイなんですよ。そして、何よりどのような状況でも正確に音を人へ届けることを意図してデザインされているんです。

若原 そのポリシーが伝わると、単なる顧客ではなく、ブランドの「ファン」になりますよね。

田子 そうなんです。また、彼らにはおもしろい戦略があるんですよ。

若原 どんな戦略ですか?

田子 「バング&オルフセン」は、世界中に販売拠点を持っています。ただ、マーケットシェアは2%より増やさないと決めていたんです。

若原 へー! それはすばらしいですね。ブランドを守るために意図的にシェアを抑えているということですよね?

田子 そうですね。「バング&オルフセン」は、購買の体験も日本のメーカーとは全く異なるんですよ。私は学生の頃から「バング&オルフセン」に憧れていましたので、社会人になってすぐにオーディオを購入しました。もちろん、高価ではあるのですが、その体験にとても感動したんです。

若原 どういった点に感動されたのですか?

田子 メンテナンスやコミュニティをはじめ、購買後も様々なことに手厚いんです。

オーディオを購入した後に具体的には何が起こるかというと、まずたくさんの人が家まで来てくれるんです。そして、最もキレイに音が聞こえるポイントを探し、セッティングしてくれるんですよ。セッティングが完了したら終わりではありません。最後に、バラバラになってしまいがちなケーブルをキレイにまとめてくれるんです。コンセントまでの道筋をデザインして帰るわけですね。

若原 それはすばらしい体験ですね!

田子 私たちは日本で育って、日本でモノを買っていますから、日本メーカーの手法が常識だと捉えています。

でも、このようなヨーロッパメーカーの「人とのエンゲージメントを作る手法」を体験すると、日本メーカーの多くは、単に「物売り」しかしていないとよくわかりますよね。

若原 最近では「売り切り」ではなく「継続課金」の重要性が叫ばれていますよね。例えば、プリンターに代表される「消耗品収益モデル」が注目されることもあります。

けれども、それはとても表面的な話に過ぎませんよね。ビジネスモデル以前に、継続課金を生み出す源として「顧客と向き合う姿勢」が必須なのだと改めて感じました。

田子 「ブランド作り」とは、いかに「信頼感」を醸成して顧客に伝えていくかということだと私は考えています。その「信頼感」は製品が語りますが、それだけでは不十分です。その製品を売る人間が会社の哲学や商品をきちんと理解して、顧客とその「ツボ」を共有することが重要なんです。残念ながら日本の企業には、自分の製品を知らない売り手が多くいると感じますね。

多くの人が憧れるブランドには、やはり「絶対的な哲学」が存在します。「絶対的な哲学」があれば、その哲学にあこがれている人、その哲学に触れている人が、その会社で働きたくなりますよね。そのように入社した社員は、「顧客に対してどのように訴えることができるのだろう?」と自発的に考えるんです。

それと対極に位置するのが、単に指示されたことだけをこなして給与をもらう、いわゆる「サラリーマン」です。彼らにとってはどの会社で働こうが同じですから、自分の会社のブランドについて考えることはありませんよね。ここが問題だと思うのです。

トレジャーデータ株式会社 若原氏

ポルシェの新人デザイナーに課される「修行」

若原 哲学に共感して「この会社の商品が好きだから作りたい、売りたい」というモチベーションをベースに仕事をすることが本質ですよね。このモチベーションさえあれば、働き方改革のほとんどが解決すると思うんですよ。

田子 本当にその通りですよ。今、世間で謳われている働き方改革に、どちらかといえば私は賛成しています。ただ、有用性の高いロールモデルとともに語られなければ、単に労働時間を削減するだけの「堕落した世界」に進んでいきますよね。

私は日本の大手企業から「働き方改革なんてくだらない!」と叫ぶ人が出てくるべきだと思うんです。GAFAを含め世界を牽引している企業の働き方は、日本でいえば「ブラック」です。でも、そこで働いている人は、疲弊ばかりしているわけではありません。それどころか、エキサイティングに感じ、楽しみながら仕事をしているんです。

若原 彼らは長時間労働も嫌がらないんですよね。

田子 自分のミッションが明快になっていて、さらに自らそれを乗り越えたいと考えるからです。日本の会社員だって、本当はなんでもできると思うんですよ。でも、自分の真の限界値を知らない、もしくは意識していない人がほとんどです。「やったことがない」など、自分で勝手に枠を作ってしまう人がいますが、それは「やらない理由作り」にすぎませんよね。

若原 確かにそういった側面はありますね。

田子 上司から与えられた仕事をこなすだけの姿勢では、やりがいもなければ、達成したい目標も生まれないんですよ。

若原 日本企業は「時間を掛けてがんばればみんなできる」と社員を均等に扱いますから、社員が会社に「甘える」メンタリティが育ってしまうと聞いたことがあります。例えるならば「日本の会社員はマザコン」なんです。

そのような日本の企業で「働き方改革なんてくだらない」と言える人は、「親から自立してひとり暮らしを始めた子ども」のような存在だと思うんです。「自立した親子」の関係が、会社と社員の正しい在り方だという気がしていて。

株式会社エムテド 田子氏

田子 社員が自立するために何が大切かと言えば、「自分で考える力」を持っているかどうかだと思います。一般的に日本は「阿吽の呼吸でニュアンスを読みとるハイコンテクストの文化」で、欧米は「明文化されたローコンテクストの文化」だと考えられていますよね? でも、ポルシェで社長を務めていた方におもしろい話を聞いたんです。

若原 どんなお話ですか?

田子 ポルシェの新人デザイナーの話なんです。ポルシェのことをあまり知らない人でも、その美しい曲線を頭に浮かべることができると思います。ポルシェの特徴である曲線は初代「ポルシェ911」が生まれてから現在まで、ほとんど変わっていません。

つまり、ポルシェに入社したデザイナーがすべきことは、個を主張することではないわけですよね。「ポルシェ」という哲学にどのようなアプローチをすべきか、歴史を崩しすぎてもダメですし、崩しすぎなくても進化はありません。ですから、新人デザイナーにはものすごいジレンマがあるはずなんです。

若原 ハイコンテクストの日本の企業ですら、新人の研修には多くのマニュアルが用意されますよね。ポルシェの新人デザイナーはどのようにその哲学を学ぶのでしょうか?

田子 初代「ポルシェ911」が設計された部屋が現存していて、新人はそこに1週間ほど缶詰にされるのだそうです。マニュアルは一切なく、その部屋で起こったことを「感じ取れ」というわけですね。

若原 すごい話ですね。

田子 日本以上に「何かを読み取れ」ということですよね。でも、これってローコンテクストの文化だからこそできることだと思うんです。様々な「意味」や「ニュアンス」が表現化されているからこそ、「言わなくてもわかるよね?」が通用するということです。

日本ではその前提となる言語が曖昧なのに「感じ取れ」がまかり通っていて、それはちょっと違うんじゃないかと感じるんです。そして、これが仕事の仕方にも直結していると思うんですよ。

若原 ローコンテクストで明快に言語化されているものだけをインプットするのではなく、「修行」のような場で内省する時間を持つことで、会社の哲学を「自分ごと化」できるのかもしれませんね。まさに「自分で考える力」ですよね。

田子 よく「ビジョン」「ミッション」「バリュー」といいますが、その裏付けが明快になっていれば、そこで働く社員は個としても表現力を獲得できます。これが「自立」なんです。

(後編につづく:「枠」を突き抜けるイノベーションの起こし方【後編】)

トレジャーデータ株式会社 若原 強氏(左)、株式会社エムテド 田子 學氏(右)

田子 學(右)
たご・まなぶ 株式会社エムテド 代表取締役。アートディレクター/デザイナー。慶應義塾大学大学院特別招聘教授。東芝デザインセンター、リアル・フリートでの勤務を経て、2008年にエムテドを創立。

若原 強(左)
わかはら・つよし トレジャーデータ株式会社 エバンジェリスト。SIer、コンサルティングファームなどでの勤務を経て、2019年12月、トレジャーデータへ参画。

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トレジャーデータ株式会社

2011年に日本人がシリコンバレーにて設立。クラウド型データマネジメントソリューションを提供しています。日本では2013年から本格的に事業を展開し、デジタルマーケティングやデジタルトランスフォーメションの根幹をなすデータプラットフォームとして、すでに国内外400社以上の各業界のリーディングに導入いただいています。
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