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出版社起点から顧客起点へ ~ 東洋経済が取り組むデータマーケティング

Case Study|株式会社東洋経済新報社
デジタルメディア局 プラットフォーム管理部 部長 坂野 靖弘

経済誌「東洋経済」、書籍「会社四季報」をはじめとするビジネス書やデジタルメディア「東洋経済オンライン」など、ビジネス領域のパブリッシング事業でビジネスパーソンから大きな支持を得ている東洋経済新報社が、現在データドリブンへの取り組みに注力しています。その背景には、どのような課題があり、またどのような将来像を描いているのでしょうか。株式会社東洋経済新報社デジタルメディア局プラットフォーム管理部長の坂野靖弘氏が、「なぜ東洋経済がデータ分析に取り組むのか」と題した講演で紹介しました。

なぜ東洋経済オンラインはArm Treasure Data eCDPを導入したのか

坂野氏によると、デジタルメディア「東洋経済オンライン」のPV数は右肩上がりで順調に成長を遂げているが、その中でサイト訪問者がどのような人なのか、いつどのような記事を読んでいるのかといった記事閲覧者のインサイトをGoogle Analyticsよりも深く分析したいというニーズが生まれていったという。

加えて、自社で保有している雑誌購読者のデータ、BtoBビジネスで集まった名刺データ、読者データ、法人顧客データ、会員データといった様々なデータがバラバラに管理されていたという課題があり、データ基盤整備に向けた機運が高まっていったという。

「出版社としては、雑誌、書籍、会社四季報などを取次店に流通して書店で販売するため、出版社が直接消費者にリーチすることはない。しかし、デジタルメディアの時代はしっかりとしたプラットフォームの構築が必要だと考えた」(坂野氏)。

東洋経済がこのようにデータ基盤の整備を進める狙いは何か。そこには、コンテンツを制作する出版社・編集者ではなく、それを受け取る読者や広告を出稿する顧客を起点にメディアを考えていくという将来像があるのだという。こうした視点に立ち、同社では2017年にプロジェクトを立ち上げ、ツールの選定や導入設計を開始。8ヶ月ほどで導入し、サイトのアクセスログをもとに読者の解像度を上げることで読者に最適な施策やサービスを考えたり、バラバラになったデータを一元管理しCRMを推進したりする環境を整えたという。

「データ基盤としてArm Treasure Data eCDPを据え、マーケティングオートメーションツールはMarketo、CRMツールはSalesforceを活用し、デジタルプラットフォームを構築した」(坂野氏)。

導入によって生まれた効果と、新たな課題

では、東洋経済はArm Treasure Data eCDPによるデータ基盤を構築したことで、どのような効果を生み出すことができたのか。坂野氏は、「導入時点でデジタルマーケティングの知見が十分ではないなか、どうすれば小さな成功体験を生み出すことができるのかを考え、課題から仮説を立てて検証した」と説明し、一例を示した。

導入当時、同社では「サブスクリプション型のサイトでせっかく入会(課金)してもらっても、短期間で退会するユーザーがいる」という課題があったのだという。この課題に対して、まずは蓄積したデータから現状分析を開始。新規会員ユーザーのサイト訪問回数、新規会員ユーザーのサイト滞在時間、新規会員ユーザーからの問合せの傾向といったデータを検証したところ、「サイトの利用方法がわからなくなり、日数の経過とともにサイトを訪問しなくなっているのではないか」というインサイトが見えてきたという。

そこで、「新規会員ユーザーに向けてサイト活用方法を紹介するメールを配信したら、利用定着につながるのではないか」という仮説を導き出し、サイト活用方法を全4回のステップメールで配信した。すると、メールの開封率が通常のメールマガジンと比較して平均3.8倍(第1回のメールでは約5倍)、メール内のURLクリック率も平均7倍と向上したのだという。

「適切なタイミングで必要なユーザーに送り届ければ、メールマガジンはきちんと読んでもらえるということを実感できた」(坂野氏)。

こうした成功体験の積み重ねは、社内にも変化を生み出したと坂野氏は説明する。社内では、シナリオドリブンだけでなく、データドリブンへの意識が高まり、経営トップだけでなく書籍、雑誌、広告など現場の各部門の意識も少しずつ変化していったのだ。ただ一方で、「解析対象のデータが膨大なためなかなか可視化が進まない」「効果を実感できる施策も増えたが、試行錯誤が続いている」「取り組みたい課題は多いが限られたリソースの中で手が回らない」といった新たな課題も生み出すことになったという。

ダッシュボードでデータを可視化し、多角的にユーザーを分析

そこで東洋経済では、企業向けにArm Treasure Data eCDPの導入支援を行う株式会社Legoliss と協業し、蓄積したデータを活用して分析・可視化を効率化する基盤の構築に取り組んだという。

具体的には、Arm Treasure Data eCDPが発行するユニークID「td_global_id」を活用してCookieをユーザーごとに一意化したほか、ユーザーアクセスのセッション化、セッション内ページアクセスの単一IDによる管理を行い、平面的に蓄積されているアクセスログを立体的に、多角的に分析できる環境を構築したという。

そして、様々な角度からユーザーインサイトと記事に対する評価を可視化し、ページビュー以外の記事評価の指標を可視化しようと試みたと坂野氏は説明。具体的には、サイト全体のPV、UUの動きや記事ジャンルごとのPVの動きだけでなく、ユーザーをロイヤリティの高さに応じたクラスタ分析、クラスタごとのユーザーの行動傾向、新規訪問者、再訪者ごとのPV・UUの傾向、クラスタごとによく読まれている記事執筆者の傾向、記事に対する接触経路の傾向、記事を読んだあとに接触しているコンテンツの傾向など様々な角度からデータを活用したダッシュボードを構築し、データを視覚化したのだという。

坂野氏は、こうしたデータ分析・可視化の基盤を構築することの意義について、「東洋経済オンラインがユーザーのためにどのようなコンテンツをどのようなタイミングでデリバリーするのが適切か、将来に渡りどのようなビジネスモデルが考えられるのかという観点から非常に重要だ」とした上で、このように読者・顧客起点でビジネスを考えていくことの真の意義について「収益への貢献やサイトの成長はもちろん大切だが、読者にも広告主にも信頼されるパブリッシャーであり続けることが最も大切なことだ」と締めくくった。

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