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デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる中、先進的な取り組みをする企業は、どのようにデータ活用を進めているのか。
キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンなどの事業会社を抱えるキリンホールディングス株式会社は、時代の変化に対応すべくマーケティングのデジタル変革に挑んでいる企業のひとつだ。同社のマーケティング活動の変化と、同社デジタルマーケティング部の取り組みとはどのようなものなのだろうか。
「タコつぼ化」していた顧客データ
キリンホールディングス株式会社(以下、キリン)は商品ごとに多数のオウンドメディアを抱えており、消費者向けのキャンペーンサイトも毎月いくつも立ち上がる。また、リアルでは、街頭でのサンプリングやPRイベント、工場見学なども多数開催しており、そこでも顧客情報を収集している。
しかし、こうした様々なタッチポイントで生まれる顧客データは「タコつぼ化」しており、それらのデータをひとつにまとめることが必要だった。
消費者の購買行動は「安ければいい」、「店頭で目立つものを買う」という時代から変化している。顧客のライフスタイルや趣味嗜好に合わせてコミュニケーションの最適化をしていかなければ、消費財メーカーも市場で生き残っていけない。そうした危機感から、商品・ブランドを軸にしたマーケティング展開から顧客本位のマーケティングに転換することを経営トップが打ち出し、デジタルマーケティングの手法や組織の在り方を大きく見直すことになった。
「データの名寄せ」からスタート
最初に取り掛かったのは、様々なブランドで抱えている顧客データのシングルリソース化だ。あらゆるソースから全てのデータを集め、それを名寄せして400万件の顧客データを作った。
このデータを活用し、顧客本位のマーケティングを展開する武器にしようとしたのが2015年に導入した初代DMPだ。最初はスモールスタートで有効性を検証し、顧客行動にあわせたクロスブランディングや関連商品のレコメンドなどから始めた。
これまでは、どのサイトにどれだけの顧客が来ているのか、どういう顧客が来るのか、どれくらい重複しているのか、といったデータはそれぞれのサイトでバラバラに取得していた。それらのデータを統合・分析できるようになったことで、オウンドメディア全体の動きを把握して今後の戦略を検討できるようになった。
「顧客の姿」をより鮮明にするために外部データと統合
しかし、キリンのタッチポイントは顧客の生活全体からするとごく一部であり、顧客ライフスタイルの全体像を知るために、外部データを自社の顧客データと統合することで、顧客の姿をより鮮明にしようと考えた。
そこで、2016年から2017年にかけて「Treasure Data CDP」への移行を行い、2018年までにオウンデメディアを対象にしたデータ活用の取り組みを本格化。2019年からは、データ活用の本格フェーズに位置づけ、さまざまな取り組みを行っている。
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デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる中、先進的な取り組みをする企業は、どのようにデータ活用を進めているのか。
キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンなどの事業会社を抱えるキリンホールディングス株式会社は、時代の変化に対応すべくマーケティングのデジタル変革に挑んでいる企業のひとつだ。同社のマーケティング活動の変化と、同社デジタルマーケティング部の取り組みとはどのようなものなのだろうか。
「タコつぼ化」していた顧客データ
キリンホールディングス株式会社(以下、キリン)は商品ごとに多数のオウンドメディアを抱えており、消費者向けのキャンペーンサイトも毎月いくつも立ち上がる。また、リアルでは、街頭でのサンプリングやPRイベント、工場見学なども多数開催しており、そこでも顧客情報を収集している。
しかし、こうした様々なタッチポイントで生まれる顧客データは「タコつぼ化」しており、それらのデータをひとつにまとめることが必要だった。
消費者の購買行動は「安ければいい」、「店頭で目立つものを買う」という時代から変化している。顧客のライフスタイルや趣味嗜好に合わせてコミュニケーションの最適化をしていかなければ、消費財メーカーも市場で生き残っていけない。そうした危機感から、商品・ブランドを軸にしたマーケティング展開から顧客本位のマーケティングに転換することを経営トップが打ち出し、デジタルマーケティングの手法や組織の在り方を大きく見直すことになった。
「データの名寄せ」からスタート
最初に取り掛かったのは、様々なブランドで抱えている顧客データのシングルリソース化だ。あらゆるソースから全てのデータを集め、それを名寄せして400万件の顧客データを作った。
このデータを活用し、顧客本位のマーケティングを展開する武器にしようとしたのが2015年に導入した初代DMPだ。最初はスモールスタートで有効性を検証し、顧客行動にあわせたクロスブランディングや関連商品のレコメンドなどから始めた。
これまでは、どのサイトにどれだけの顧客が来ているのか、どういう顧客が来るのか、どれくらい重複しているのか、といったデータはそれぞれのサイトでバラバラに取得していた。それらのデータを統合・分析できるようになったことで、オウンドメディア全体の動きを把握して今後の戦略を検討できるようになった。
「顧客の姿」をより鮮明にするために外部データと統合
しかし、キリンのタッチポイントは顧客の生活全体からするとごく一部であり、顧客ライフスタイルの全体像を知るために、外部データを自社の顧客データと統合することで、顧客の姿をより鮮明にしようと考えた。
そこで、2016年から2017年にかけて「Treasure Data CDP」への移行を行い、2018年までにオウンデメディアを対象にしたデータ活用の取り組みを本格化。2019年からは、データ活用の本格フェーズに位置づけ、さまざまな取り組みを行っている。
なぜ「Treasure Data CDP」だったのか
データマーケティングには、データを集め、集約し、外部データと繋ぎ、分析し、コミュニケーションを生み出すというステップがある。Treasure Data CDPはこの全体像をワンストップで実践できる数少ないプラットフォームだった。
自社が保有する顧客データだけでなく、外部データも活用しなければ、顧客を深く知り継続的なコミュニケーションを生み出すことに繋がらない。そのために、スモールスタートだったDMPの活用を拡張して、外部データを柔軟に取り入れて活用できる基盤としてTreasure Data CDPを導入した。
キリンがTreasure Data CDPで目指すのは、マス、リアル、デジタルを統合したシームレスなマーケティングだ。これらのデータを活用することで、顧客を深く知り、継続的なコミュニケーションを生み出すことにつなげていくことができるようになった。
IDベースでの継続的なコミュニケーションが可能に
キリンはこれまで、オウンドメディアなどの「デジタル接点」をつないだ、デジタルtoデジタルのコミュニケーションを行っていた。つまり、データソースは大半がデジタル行動データで、お客様とのリアルな接点を捉えきれないという課題があった。
この考えを改め、「購買(買う)、飲用(飲む)、リアル(参加する)」を加え、デジタル接点とリアル接点をつなげたコミュニケーションデザインとすることで、顧客や事業への貢献を目指す戦略に舵を切る。デジタル購買データ、リアルな飲食店・量販店購買データ、アンケートデータ、工場見学・イベントデータなどを拡充。ウイスキー・クラフト・ノンアルなどの強化カテゴリーのフラグを新設し、購買・飲用・リアルの各接点を個人別にフラグ化して「濃いデータ化」を図ったのだ。
その結果、クラフトビールユーザーで初めて「IDベースでの継続コミュニケーション」が可能になった。その事例をいくつか紹介する。
データ活用事例1:
リアルイベントによる態度変容を捉える
2018年、2019年にキリンが開催した体験型ビールイベント「カンパイ展」は、数万人規模の来場者数を誇る。しかし、来場予約やID登録が不要であるため、参加者の属性が把握しにくく、非常に濃い体験である一方で、その態度変容に寄り添う仕掛けがないことが課題だった。
そこに、デジタル施策として
- 来場者限定のキャンペーンを実施
- 来場者データ取得してTreasure Data CDPへ格納
- インセンティブの付与
- 外部のECサイトとデータ同期
- クーポン付きメールなどの配信
といった、リアルイベントによる態度変容を捉えた外部EC購買への転換スキームの実証実験を実施した。
データ活用事例2:
顧客ごとに最適なメール配信
新設した顧客フラグ情報を活用し「クラフトビールコンテンツを見た」「イベントに参加した」「ECでクラフトビール購入」といったリアル接点での情報を組み込み、クラフトビアニュースという号外を配信。その結果、通常と比較して開封率3倍、クリック率2倍という成果につながったという。
データ活用事例3:
飲食店における継続来店モデルの構築
デジタルを駆使した、飲食店における継続来店モデルの構築にも取り組んでいる。ビアレストラン「キリンシティ」に来店いただいたお客様に、デジタルきっかけでもう一度来店していただくために、インスタントくじ、スタンプラリーといったインセンティブキャンペーンを実施。ID登録を起点に、2日後に初回来店お礼、14日後・21日後に来店促進のプッシュ通知する継続的なコミュケーションを実現した。将来的には、一般飲食店向けのソリューションへの展開を検討しているという。
データ活用事例4:
ワイナリーへの来訪価値向上
ワイナリーでは、リアルでの接客やおもてなしにデジタルやリアルの情報をインプットする施策を実施している。
ワイナリーの来訪をより特別な体験にするために、お客様情報をTreasure Data CDPの中で結合・加工し、顧客カルテを表示。「過去のワイナリー訪問」、「ワイン購入」、「イベント参加」、「ECでのワイン購入」を可視化し、ワイナリースタッフがそのカルテをもとに接客できる仕組みを整えた。
これからの取り組み:
デジタル&リアルでの濃い体験の創出
「濃い体験」の大量生産は、デジタルの力だけでは難しい。今あるお客様とのリアルな接点を、デジタルによってより良く、濃いものにしていくことが重要だ。
例えば、「飲んだ」「買った」「SNS投稿した」といったコンバージョンポイントの「Before」を見ることで、これまで見えなかったファクトベースでのペルソナの推定や、「After」で態度変容がどのような仕組み・きっかけで起こったのかを検証していけるのではないか、と考えているという。
また、2019年以降は社内におけるデータ活用民主化の取り組みのなかで、データ基盤を中央集権管理型から、分散管理型へ移行中だ。キリンのマーケターや企画担当者が自らの目的に沿ってデータを活用する土壌を構築するためだ。用途毎にデータを統合することになるため、より濃いデータが生まれる。
デジタル接点に加え、リアル接点、購買接点、飲用接点をつなげ、濃いデータを基にお客様のインサイトを理解し、お客様接点を再設計しているキリン。目指しているのは、お客様への価値提供と、売り上げ・利益への貢献だ。接点の多さを生かして深い顧客理解から濃い体験を創出し、それを実現するソリューションの開発を目指す。