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「いいとこ取り」が可能になった時代 (ゲスト: 白井宏昌さん第3回)

PLAZMA TALK #3|建築家, 滋賀県立大学 環境科学部 教授 白井 宏昌氏

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Treasure Dataでエバンジェリストを務める若原強が各界注目のゲストを招いて対談する「PLAZMA TALK」。
ゲストは前回に引き続き、ロンドンオリンピックパークの設計から台湾の違法建築研究まで幅広く手がける、建築家/滋賀県立大学 環境科学部 教授の白井宏昌さんです。
「大量生産とオーダーメイドの中間を探る」という観点から、建築や街のあり方、前職オフィス研究家時代の若原と意気投合し協業したプロジェクト、そして教育や生き方までを語り合う80分の最終回です。

第1回目のトークはこちらから:
白井さん、デジタルは建築を変えていますか?(ゲスト: 白井宏昌さん 第1回)

第2回目のトークはこちらから:
アナログとデジタルの判断とそのあいだ (ゲスト:白井宏昌さん第2回)

Topics

ミネルバ大学と学び方/「何を教えるべきか?」/スキルか哲学か/人間にとって必要なことはなにか/場所を変えながら学ぶメリット/既存のスキルセットと新しく獲得するスキルをミックスさせる重要性/働き方と学び方/会議室を新しくする必要性/分母は地球/問題解決ではなく発見するスキル?/ミネルバ大学に「選ばれる」都市の基準/4年で7つの都市を移動するプロセス/キャラクターが明確な都市が生き残る?/都市間競争ではない価値基準/暮らす場所のポートフォリオができる時代に/全てが尖っている必要はない、という選択肢/多拠点居住/「いいとこ取り」がテクノロジーによって可能になってきている/「いいとこ取り」は現代だからできる/高度経済成長期と「個別化」/シェアハウスのネットワークとアプリ化/リモートワークの経験がもたらすもの/働く側も雇う側もリモートワークに慣れる/副業兼業制度/持ち家・賃貸という居住形態が変わる?/OUTPOST™の試み/欲望と恐怖心をオフグリッドとコネクテッドが解決する?/OUTPOST™は「方丈記」の現代版?/データから人間観察/ライフスタイルを定義するものはなに?/スパイラルアップして原始時代に戻る/絶景の前で1人ネットサーフィン?/脱都会スキームを都会に投入した

Hiromasa Shirai: Registered architect in Japan/Netherlands | Professor, University of Shiga Prefecture

Tsuyoshi Wakahara: Evangelist, Treasure Data

Recording: 2020/04/10
※収録はオンラインにて行っています。一部背景に環境音が入っていますがご了承ください。

ミネルバ大学と学び方

白井 では僕からの質問なんですけど、前に若原さんと一緒に話していて、アメリカのミネルバ大学、キャンパスを持たない大学の話が結構印象に残っていて。あの話ってすごくいろんなことを示唆しているような気がしたんですけど、またどういうものかというところから初めに教えていただけますか?

若原 ミネルバ大学は聞くところによると、ハーバードとかMITとか有名な大学よりも倍率が高くて入るのが難しいみたいに言われて、そういう話でメディアに載ることも多い大学なんですけど、なんでそんなに魅力的かというと、教育のシステムに特長があって、1つは白井さんがおっしゃっていたようにキャンパスを持たないというところが面白い大学だなと。アジアパシフィックのディレクターに僕1度インタビューさせてもらったことがあって、そのときに教えてもらったことなんですけど。
 で、大学の拠点というか本拠地はサンフランシスコらしいんですけど、1年目に入った学生はサンフランシスコで学ぶんですけど、2年目からは、正確には覚えてないですけど、台北に行ったりとか、インドのハイデラバードに行ったりとか、ベルリンに行ったりとかしながら、半年に1回暮らす15人でとどまる町を変えながら学んでいく。で、授業は基本的にオンラインで受けながら、その都市でできるフィールドワークをやりながら学んでいくという、そういう大学でしたね。

「何を教えるべきか?」/スキルか哲学か/人間にとって必要なことはなにか

白井 普段大学にいると教育のことを考えることがやっぱりあって、何を教えるべきかなって思うんですよね。例えば僕の場合建築ですけど、実務としての建築を、社会人になったら即戦力みたいなスキルを教えるべきなのか、もうちょっと哲学的というか、概念的なことを教えるのかって結構悩むときがあって。そのときにそのミネルバ大学の試みってすごくいいなと思っていて。基本的には自分の知らないところへ行って生き抜くというか。で、それも単純にサバイバルするんじゃなくて、自分の得意分野を生かして生き抜くという。結局人として必要なのってそれだなと思っていて、それを大学でやるっていうのはすごくいいなと思っていたんですよね。

場所を変えながら学ぶメリット

若原 そのディレクターの方もおっしゃっていたんですけど、今台北に住んでいる時期で、住み始めはいろいろあって、慣れないといけないし、頑張らないといけないところもあるんですけど、半年ぐらいしたら大体慣れてくるじゃないですか。その慣れてきた頃を見計らってまた次の都市に強制的に移すみたいな感じで。とにかくそういう変化をたくさん味わわせて、その変化の中でアダプトしていく能力を身につけたりとか、永続的に前提というものがない中で物事を学んでいくとか身につけていく力をそこで育みたいとか。
 あとは逆に、ビジネスを立ち上げるということを学ぶにしても、台北で立ち上げるのとベルリンで立ち上げるのとインドで立ち上げるのって全然文脈が違って、その違いを俯瞰して学べたりとか、その中で一貫する本質が学べたりとかっていう、場所を変えながら学ぶことに本当にいろんなメリットがあるんだという話がすごく面白かったですね。

既存のスキルセットと新しく獲得するスキルをミックスさせる重要性

白井 僕も建築という文脈で仕事はしているんですけど、請け負って、建物を設計して、というだけじゃなくて、それこそ若原さんとの仕事で普通の建築の人がやらないようなこともやって、それを拒むんじゃなくて、これは自分のやってきていることの延長にあると捉えて、自分のスキルのどこが使えるのかなというのを見ながら、知らないところ、どこを吸収すべきかというのを、自分の中でミックスすることってすごく大事な気がしていて。で、そういうのがなんとなくあのカリキュラムってきちんとされているんだろうなというところで、すごいなという気がしますよね。

若原 そうですよね。

働き方と学び方/会議室を新しくする必要性

若原 そもそも僕がミネルバ大学のアジアパシフィックのディレクターに話を聞きに行った理由は、前職で働き方の研究をしていたんですけど、働き方は学び方と密接に結びつくところがあるなと思っていて、高等教育を受けながら学んでいく過程で形成される価値観って働き方にそのまま直結するみたいなところがあったりするじゃないですか。だから、前オフィスを手掛けていたときの笑い話で、大学生はアクティブラーニング、みたいな、フレキシブルに学ぶ学び方で学んで社会に出てくるけど、就職した会社が結構保守的な会社だと、会議室がロの字型のデスクがずらっと並んでいて、ギャップがありすぎて慣れないみたいな。だからオフィス作る僕らも会議室をちゃんと新しくしていかないといけないんだみたいな、そういう話とかあったんですけど、そういうつながりが面白いなと思って。

分母は地球

若原 そうしたとき、かなり新しい学び方をしていく学生は、就職というものをどう捉えるのかなというのも聞きたくて、それでインタビューさせてもらったんです。で、その前半でミネルバ大学とは、みたいな話を教えてもらいながら、後半でその話を聞いたときに面白かったのが、僕なんかが就職するときの就職感とぜんぜん違うなと思って。僕の身の回りだと、どこの業界に就職しようか?とか、この業界だったらこの会社とかこの会社とか良さそうじゃない?とか、そういう話が大半だったんですけど、ミネルバ大学の学生の中で行われている話というのは、分母が地球で、地球上のどこの課題を解くのか、とか、地球上でどういうことを生み出すことに自分は寄与したいのか、みたいなことから始まって、その手段として、組織に所属して就職するのか、自分で起業するのか、みたいなことを考えるパターンが多いんじゃないのかな、みたいな話をミネルバ大学の人がなさっていて、これは結構すごい変化だなと思ったんです。だから逆に言うと、今働き方改革とかずっと言っていますけど、既存の仕組みで学んだ上に既存の仕組みで働き慣れちゃった人たちを改革するというのも、実はあまり効率良くないんじゃないかなと思っていて。本来であれば教育のところから変えていくというのが、時間はかかるのかもしれないですけど、本質的な変化を起こせるのかなというのは、その話を聞いたときに改めて思いました。

問題解決ではなく発見するスキル?

白井 確かに。で、大学で最近よくキャッチフレーズ的に言われているのは、問題を解決するスキルじゃなくて、問題を発見するスキルを身につけましょう、みたいなことはよく言われているんですけど、でも意外に上手く行かないというか、難しいんでしょうね、きっと。ミネルバ大学って半強制的にそういう場所に置くじゃないですか。そうすると確かに問題解決より問題発見のほうに目が行くのかもしれないですけど、キャンパスが同じで、ある意味快適な環境にいると、問題発見型というところに行くのかな?と疑問に思うところも。

若原 環境の影響はありますよね。ちょっと話ずれるかもしれないですけど、英語を身につけるには結局日本にいたら身につかないみたいな話もよくありますから。強制的にしゃべらざるを得ない場所に行かないと身につかないみたいな話もそうだと思うんですけど、環境を変えないと根本的に変わらないみたいな話ありますよね。そういう意味だと、ミネルバ大学が学生を半年派遣したいと思われる都市にいかになるかみたいな話は結構面白いですよね。

白井 それもすごく面白いですよね。

ミネルバ大学に「選ばれる」都市の基準/ 4年で7つの都市を移動するプロセス

若原 町をどうやって選んでいるんですかって聞いたら、いくつかいろんな基準があるんだけども、安全性と利便性というか。治安の良さ、悪さみたいな話とか、利便性は、例えば停電が多いか多くないかとか、生活インフラがしっかりしているかとか、そういう最低の生活レベルは保てるかみたいな感じもあるし、あとは、キャンパスがないので町にあるいろいろな施設を大学の施設代わりにシェアして使わせてもらうみたいな話らしいので、大きな陸上競技場みたいなところを滞在期間中の体育館に使わせてもらうとか、そういう施設が十分にあるかどうかみたいな基準で絞っていくと、確か世界中の都市で、候補になるようなところは50都市もないと言ってました。その中から、今は4年間の教育の中で7つの都市を行き来するのがいいというふうにいったんは決めているらしいんですけど、その試行錯誤で、もしかしたらそれが六つになるかもしれないし、都市が入れ替わるかもしれないし、みたいなことはおっしゃっていて。その教育プロセスの中で選ばれる町、っていう、そういうブランドってありそうですよね。

白井 そうですよね。

キャラクターが明確な都市が生き残る?/都市間競争ではない価値基準

白井 いわゆる尖った都市というか、キャラクターが割とはっきりしている都市が生き残っていくみたいな話ってよくあるじゃないですか。で、今の話で行くと、いわゆる足切りみたいなのがあって、足切りを越えたところでまた競争があったときに、果たして尖った都市、特長があった都市というのが残っていくのか、それとももうちょっと違う判断基準があるのかっていうのは気になるところですよね。4年間で6つなり7つの都市を選んだとき、みんながみんな多分尖っているところではなくなるような気がするんですよね。

若原 違いがある、ということのほうが大事かもしれないですよね、その7つの間で。必ずしも全部アバンギャルドな感じじゃなくてもいいというか。

白井 そうだと思うんですよね。で、恐らく大学としては、6つの都市をつないでいったとき、何かストーリーみたいなのを作っているんでしょうね。起承転結はわからないですけど。そのストーリーのピースになるようなものがきっといいんでしょうね。それは実は、もしかしたら実は特長もなくて退屈かもしれないけど、それがピースの中ではすごく役割を得ているとか。

若原 ありますね、きっと。

白井 そう考えたときに、今の都市って競争みたいな感じで、どちらかというと尖っているほうがいいみたいな風潮がちょっとあるような気がしていて。そうじゃない価値基準も出てくるんじゃないかな、というのは、今のミネルバ大学がどこの都市を選ぶかという話を聞いたときに思って。

若原 こう言うと語弊があるかもしれないですけど、地方都市ってみんな東京化を目指さなくてもいいというか。それこそ地方は地方ならではの良さがある、って何度も言い古されている言葉ですけど、そこに改めて立ち戻るというのは大事かもしれないですよね。

暮らす場所のポートフォリオができる時代に/全てが尖っている必要はない、という選択肢

若原 今もお話聞いてて思ったんですけど、ミネルバ大学みたいな学び方っていいなと思う一方で、自分には大学卒業しちゃったし関係ないなって思ったりもするんですけど、最近暮らし方で多拠点居住みたいな考えが出てきているじゃないですか。あれがもっと拡大していくとすると、自分自身も暮らす場所をポートフォリオとして持つというか、どことどこで暮らし分け、生活しようかなと考える時期が来るんだとすると、結構同じようなこと考えるんだろうなと思うんですよね。で、それは日本国内に限った話かもしれないですし、もしかしたら海外と日本と、というもっと広い視点かもしれないですけど、そのときには、一つの場所が仮に東京だとすると、東京都同じような場所って多分選ばないじゃないですか。そうすると、まさにおっしゃっていたような、全部が全部尖っていなくていいということになっていくと思いますし、そういう暮らし方をする人が増えたときに、居住先の一つとして選んでもらえるような町づくりという観点が面白くなってきそうな気がしますね。

白井 そういう意味では、今のお話で出た多拠点居住というのはめちゃくちゃ興味ありますね。

多拠点居住 /「いいとこ取り」がテクノロジーによって可能になってきている

若原 ありますね。多拠点居住は、いいとこ取りじゃないですか、あれって。1番最初にお話あったオーダーメイドと大量生産の真ん中って、あれは単純な真ん中というよりはいいとこ取りみたいな感じだと思うんで。そのいいとこ取りという感じが、それこそテクノロジーの進展によって可能になってきているというか、面白い時代だなというのは思いますね。

「いいとこ取り」は現代だからできる/高度経済成長期と「個別化」

白井 確かにいいとこ取りって、若原さんと一緒に話していると結構よく出てくるキーワードだなという気がしていて。でもそれって僕はすごく大事なことな気がするんですね。あと、今の時代だからできるキーワードな気がしていて。多分昭和の時代っていいとこ取りって難しかったんじゃないかなという気もしますよね。

若原 どちらかというと昭和の高度成長期から現代にかけてって、誤解を恐れずに言うと、個別化が進んでいったかなという部分もあるかなと思っていて。昔はそれこそ長屋文化とかでお醤油貸し借りし合いながら、井戸も共有しながら、というような文化から、テレビが一家一台になりますとか、自分の家の中で全部完結するみたいな暮らしが最先端だ、みたいな価値観の中で近代化って進んできたところもあると思うんですけど、以前の暮らし方に戻るわけじゃない揺り戻され方の一つがいいとこ取りなのかな、っていう気がしますね。

白井 今おっしゃっていましたけど、いいとこ取りができるようになったのも、例えば多拠点居住でいくと、そういうのがスマートフォンで簡単にどこに何があってとか、そういうのも自分の手元でわかるようになったというのは大きいですよね。あれを自分で1個1個調べてたら、かったるいですもんね。

シェアハウスのネットワークとアプリ化

若原 シェアハウスのネットワークがちゃんとできて、そのネットワークに登録すると、予約も管理されて、登録されている会員の間で上手く使い回しができるみたいなことも、テクノロジーとかプラットフォームが支えていることだと思いますし、そういうのは技術の進展がないとできなかったことなんでしょうね、きっと。だから、そういう流れの中で、多拠点居住したいけどどこに住めばいいかわからないみたいな人におすすめを出す、みたいな。これまでの人生の暮らし方をインプットするとおすすめを出してくれるみたいな話とか。あとは、まずはこことここで2拠点居住してみて、自分の嗜好性を探りましょう、みたいな提案が出てくるとか、そういう世界があるかもしれないですね。

リモートワークの経験がもたらすもの/働く側も雇う側もリモートワークに慣れる

白井 多拠点居住って基本的に、それを成り立たせるのってリモートワークができるということじゃないですか。で、今回の騒動で相当な人がリモートワークを経験するじゃないですか。これがいつ収束するかわかりませんけど、ある程度これが落ち着いたあとのことを考えると、リモートで働くというのが結構定着してくると、多拠点居住ってまだまだハードル高いところもあるじゃないですか、色んな意味で。それが変わるような兆しになったりするような気が僕はしているんですけど。

若原 あると思います。仕事をするほうもリモートでやることに相対的に慣れて、人を雇うという言い方がいいかわからないですけど、事業者側、経営者側もリモートでみんなに働いてもらうということにも慣れて、そうすると、通勤距離に住んでてもらわなくてもいいじゃん、みたいな感じ方が生まれて、部署によって人の募集要項に、この職種は通勤圏居住が必須です、みたいな。

副業兼業制度/持ち家・賃貸という居住形態が変わる?

若原 この職種はリモートワークができれば基本的にどこに住んでいても変わりません、みたいなことが、いわゆる副業、兼業制度の解禁と合わさって広がっていったりすると、だいぶ世界が変わりますよね。

白井 そのときに住宅も、持ち家とか賃貸だけじゃない違う住居形態も出てくると、建築のほうももう少し面白い世界が出てきますよね。

若原 いろいろな施設の役割の再分担みたいなものが進むのかもしれないですね。実は会社でお風呂入って帰ったほうが、とか、家でやっていたものをみんなで、ってやったほうが効率がいいから会社でやる、みたいな話とか出てくるかもしれないですし、そういうのがいろいろあるかもしれないですよね。

白井 それこそ前、若原さん考えられていたオフィスキッチンの展開というか、そういうのも全然ありえますよね。

若原 確かにそうですね。オフィスの中にキッチンを作りたいみたいなニーズは近年結構高まっているんですけど、賃貸で借りるオフィスビルって水回りの工事のハードルが高くて、お金も掛かるし。なのでそういうキッチンを作るのが難しいみたいな中で、水の浄化技術を持ったWOTAというベンチャー企業と協業して、オフグリッドキッチンみたいなものを作って、そのキッチンで使った水はそのキッチンの中で浄化して、またきれいな水として出てくる、みたいなものを作れば、水道管につながなくてもオフィスの中でキッチンできるよね、みたいな。ああいう概念がより拡大していくと、居住先を柔軟に持つみたいな話とか、全然あり得ますよね。

白井 そういう世界はすごく面白いですよね。みんなが一つの箱にとどまっているんじゃなくて、もっとフレキシブルに、いろんなところに自分の拠点というか足場があって、それを自由に使いこなしていく、というのはすごく面白いライフスタイルだなという気はしますね。

若原 さっきの多拠点居住の話で、白井さんの建築家としての視点で感想を伺いたいなという話につながりまして。

OUTPOST™の試み

若原 今私が勤めているトレジャーデータという会社は、オフグリッド型のコネクテッドハウスというプロジェクトをやっているんですね。で、OUTPOST™(アウトポスト、注:参考)という名前をつけているんですけど、それは何かというと、キーワードとしては2つありまして、オフグリッドとコネクテッドというキーワードとなんです。オフグリッドは、水道管につながなくてもその家の中で水を浄化して循環させて、その水をまかなえるので、水道管要りません、みたいな。あとは、エネルギーに関しても、太陽光発電と蓄電池を上手く組み合わせて、電線につながなくても電気の使えるという話ですね。コネクテッドは、センサーで常にネットにつながっていて、その家の状況が把握できるので、人里離れたところでコンテナハウスで生活しても何かあったときには連絡が取れたりできるので安心です、みたいな、そういう話なんです。
 そういうものが、都会で大多数の人が都市部で暮らしている便利な暮らしが、そのまま山の上に持っていけるとか、渓流の、すごく山深い場所に持っていけるとか、砂漠のど真ん中に持っていけるとか、暮らしていける場所の選択肢が非常に広がるなと思いますし。で、そもそも住宅地って何なんだっけ?みたいなことを問い直すことにもなったりとか、人間性を取り戻す暮らしとして、キャンプとかって好きな人は好きだと思うんですけど、そうじゃない人って結構不便だなと思うことも多いような気がしまして、そういう都会で得られる便利さをどこにでも手軽に持っていけるみたいな世界が実現できると、人の暮らし方も大きく変わるんじゃないかなと。その裏で、こういう家ってデータを扱うことになるので、そのデータを扱う会社がこういうことを提案するって、面白いんじゃないかなと思っているんですけど、こういった話も上手く組み合わせると、先程のお話が膨らむなと思って、白井さんのご感想を一度お伺いしたいなと思ったんですけども。

欲望と恐怖心をオフグリッドとコネクテッドが解決する?

白井 試みとしてすごく面白いし、魅力的だなと思います。例えば、ここ本当にすごい絶景なんだけど人住めないよな、とか、砂漠のど真ん中で、ここを独り占めしたらすごく贅沢な気持ちになれるんだけど、住めないんだよなっていうところって地球上いっぱいあるじゃないですか。そういうところに住んでみたいという欲望って、人間としてあるような気がするんですけど、その裏で、でもここに住んだらどうなるんだろう、みたいな恐怖心みたいなものも両方あって。欲望と恐怖心って常に持っていると思うんですよ。それを上手くオフグリッドというところとコネクテッド、コネクトされていることで安心感は担保していて、その2つ、欲望と恐怖心という相反するものがきちんと解決されているなという印象で、僕はすごく魅力的に見えました。
 で、例えば地方とか田舎に行って、すごく山奥ではないんだけど、ここは水も通ってないし、電気もないし、Wi-Fiはどうかな?みたいなところあると思うんですけど、そういうのがいわゆるオフグリッドの循環型のものがあれば、確かにできそうだなと。なおかつそれで何かにコネクトされていれば、安心してできるなという感じはすごくしますよね。そのときに興味は、そこに自分の居場所があるとして、それがいわゆる家というかたちになるのかな、というのがもう一つの興味で。例えば、僕らが家と想像しちゃうと、リビング、ダイニング、キッチン、ベッドルームみたいな、なんとなくNLDKのイメージで持っちゃうじゃないですか。でも山奥とか砂漠のど真ん中とか行くと、多分そういう概念じゃないんだろうなと。もっと本能的に住むんじゃないかなと。そこも実は興味ありますよね。

若原 それは確かに面白いですね。これも先入観なんでしょうね。

OUTPOST™は「方丈記」の現代版?

若原 こんなところに家を作れたら、と思うけど、中はどうしても今の家のままのかたちをどうしても踏襲しちゃうというのは、今の間取りのかたちがある程度人間の生活が集約されたものではあると思うんですけど、これだけ極端に環境が変わると、もしかしたら今まで洗練、統合されてきた間取りという概念がまた変わるかもしれない、というのは確かにあり得る話ですよね。

白井 鴨長明の「方丈記」ってあるじゃないですか。あれは、要するに世捨て人になって、京都の山奥で今で言うモバイルハウスを作って転々と生活をした人なんですけど、本当に最低限のスペースで、寝る、食べる、くつろぐ、みたいなのを全部基本的にワンルームでしていて、飽きたら家を畳んでまた別のところに移る、みたいな。それの現代版のような気もしますし。そこで人間観察みたいなのできたらすごく面白いですよね。人間って何にどれくらい時間を割いているんだろうと。基本的には拘束がないわけじゃないですから。だから夜起きててもいいし。

若原 それ面白いですね。

データから人間観察/ライフスタイルを定義するものはなに?

若原 今は逆に言うと、いろいろなルールとか制度に縛られて生きているから、人間の生活ってそこまで多様化しないけど、どこに住んでもいいよとなった瞬間、みんなどこに住みだすのかとか。しかもそれをまた、無理矢理データの話に持っていくつもりでもないんですけど、統計データを取ると、実は人間ってこういうふうに暮らしたかったんだ、というのが。

白井 そうですよね。ご飯は実は3度とるんじゃなくて、6回とったほうが、本能のおもむくままがよかったり、寝ながら食べるの実はいいとか。

若原 ありそうですね。

白井 僕らの今の暮らしって、わりかし社会が決めたシステムとかルールに則って自分たちのライフスタイルが定義されているような気がしていて、何でもいいよ、というところに放り出された途端に、それこそ野生に戻るというか。

若原 確かにやりたい放題になったとき、どうやりたい放題になるのかって結構興味ありますね。

白井 で、それをデータを取ると、ほとんどの人がこうなっていた、みたいな世界があるかもしれないですよね。

スパイラルアップして原始時代に戻る/絶景の前で1人ネットサーフィン?

若原 ある種原始時代に戻るようですけど、ちょっとスパイラルアップしているというか、完全に戻っているわけじゃないというか。確かにその可能性は面白いですね。

白井 例えば絶景のある場所に住んで、なんとなく想像しちゃうのは、すごく絶景だから1日ボーッとして景色を眺めるというのはなんとなく想像しちゃうじゃないですか。だけど実はそうじゃなくて、やっぱり1人になった不安のほうが大きくて、ずっと実はネットをしているとか。

若原 確かに。そうすると常時接続のモニターがあって、ほかの場所にいる人と常に話している状態になっていたり、とか、そういうのもあるかもしれないですね。

白井 で、人間の本能がどこに向かうかというのはちょっと読めないところもあって、それがこういうところだと実験として面白くなりそうですよね。

若原 こんなすごい場所に住んでいるんだぞ、という承認欲求が高まりそうなところもあるから、それに応える設えとか仕組みとか何があるとか、そういうのもあるかもしれないですね。あまりにも辺鄙なところに行ったら、そもそもそこに住んでいることにすら気づかれないから、承認欲求満たされないとか、あるかもしれないですね。面白いですね、その展開は。

脱都会スキームを都会に投入したら

若原 そういう意味で言うと、僕もこの話の展開で考えていることがあって、これはどちらかというと脱都会みたいな話じゃないですか。脱都会をする目的で作っているものをあえてまた都会に持ってきたらどうなるか、みたいな話も面白いなと思っていて。例えば、高級レジデンス、マンションみたいなのあるじゃないですか。その高級レジデンスが都会のど真ん中にあるんですけど、そのレジデンスエリアは実は全部オフグリッドであり、コネクテッドになっていて、このビルのレジデンスフロアは水道管も通ってないし電線もつながってないけど普通に暮らせるんです、みたいな。そのいいところは、災害が起こったり、今みたいな状況になったりしても、普段と同じ豊かさでそのまま暮らせるし、それが新しい高級さなんです、みたいな。で、数十年後のお金持ちはそういうことにお金を払うような価値観に変わっている、というような話も生み出せたら面白いなと思ったりして。そういう意味で、これが無理矢理都会に持ってきたときにどうなるんだろうという、都市内オフグリッドの価値みたいなことを考えると、そういう題材としても面白いなと思ったりしているんですけど。

白井 多分キーワードでいくと、レジデントというか、レジデンスというか、それがすごく全面に出て、住宅を構築していくという世界観はきっとあるんでしょうね。それが一つの価値になって、そこにみんながある程度お金をつぎ込むようになっていくという。

若原 豪華な設えとか、単純な間取りの広さにお金を掛けるということじゃないお金の投資の仕方が出てくるというのも面白そうだなと思って、それが未来っぽい感じがして面白いなと。白井さんともし接点が持てれば、こういう話もまた一緒に議論させていただきたいなと思っていますんで。今日は本当にいろんな話、楽しかったです。

白井 こちらこそありがとうございます。

若原 お互いのここ数年をキャッチアップして議論できたという感じがして、すごく面白かったです。また落ち着いたらぜひ。

白井 そうですね。

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いかがでしたか?
白井さんとの対談は以上になります。引き続き、当サイトでは弊社エバンジェリストの若原と各界の素敵なゲストによる対談をお届けしていきます。
ぜひお楽しみに。

トレジャーデータ株式会社

2011年に日本人がシリコンバレーにて設立。組織内に散在しているあらゆるデータを収集・統合・分析できるデータ基盤「Treasure Data CDP」を提供しています。デジタルマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメション)の根幹をなすデータプラットフォームとして、すでに国内外400社以上の各業界のリーディングカンパニーに導入いただいています。
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